これを旅館と呼んでいいのか!? 老舗旅館「陣屋」が切り開く新たなビジネスモデル【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(4/4 ページ)

» 2018年10月09日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

 最近では「集客の助け合い」も始めている。箱根にある宿泊施設付きのフレンチレストラン「オー・ミラドー」と協力し、互いのWebページで送客しつつ、1泊目は陣屋、2泊目はオー・ミラドーという連泊プランを企画。2人で約27万円という高額なプランながら、年間で数十件の予約が入ったというから驚きだ。

 こうした取り組みは、旅館同士が連携することで、旅行代理店などに支払う手数料のコストを削りつつ、異なる観光地が持つ長所を組み合わせ、より魅力的なプランに仕上げるのが狙いだ。今後はこの動きを全国に広めていきたいという。

 「今は箱根と秦野でやっていますが、これを地方で実施したいんです。隣同士の温泉郷や隣同士の県など、車で2時間くらいの距離であれば、さまざまな観光地を経由して遊ぶプランが出来上がります。地方の観光都市は、どう人を集めるかが大きな課題で、それが地方創生の1つのカギになっています。各地に点在する宿泊施設を結んで、エージェントさんではなく、自分たち自身で発信する新しいツーリズムを作れないか。今はそれに挑戦したいと思っています」(宮崎さん)

photo 元湯 陣屋 代表取締役女将の宮崎知子さん

誰もが憧れる“世界一の旅館”の作り方を研究し続ける

 もともとは借金を返し、息子を守るために継いだ旅館業だったが、10年近くがたち、今や日本中が注目する旅館となった「陣屋」。誰もが憧れる“世界一の旅館”の作り方を研究し、自ら進化を続けていく――今、彼らは未来に向けて「旅館を憧れの職業にする」というビジョンを掲げている。

 「今までは効率化という点をがむしゃらに追い求めてきましたが、スタッフの定着率に目を向け、働き方を変えていくうちに、スタッフも仕事が単なる作業ではなく、キャリアを描けるようなものになってきたんじゃないかと思っています。ああなりたい、こうなりたい……そう思うスタッフがたくさんいて、ここ2年くらいでようやく全ての歯車が合ってきたと思っているんです」(宮崎さん)

 他業種から旅館という全く異なる世界に飛び込んだ宮崎夫妻。中にいる皆がこれまで持っていなかった視点でビジネスを見直し、レガシーな旅館業に新たな風を吹かせ続けている。

 旅館そのものに加え、それを取り巻くシステムや人材や備品といったリソースまでをビジネスのプラットフォームと捉えることで、ITを活用しながら次々と新たなサービスを展開していく。月並みな言葉かもしれないが、これこそが「デジタルトランスフォーメーション」と呼べるのではないだろうか。陣屋の快進撃はまだまだ止まりそうにない。

特集:Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜

 ビジネスのデジタル化が急速に進む今、事業や企業そのものを変えるために、これまでと異なる考え方や人材が必要になっています。

 システム企画と実装、業務部門とIT部門など、異なる部署や仕事の境界に立ち、それを飛び越えてつないでいく――そんな「越境」を通じて、さまざまな視点や考え方を得ることで、初めて変革を導くことができるのではないでしょうか。

 本特集では、越境に成功したり、挑戦したりする人間にスポットを当て、彼らが歩んできたキャリアやITに対する考え方に迫っていきます。

photo 特集ページはこちらのバナーから!
前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆