週休3日制などで注目を集める、鶴巻温泉の老舗旅館「陣屋」。彼らのビジネスはもはや旅館だけではない。成功事例そのものを商材とし、自社システムの外販から“旅館互助サービス”の展開まで、もはや旅館とは呼べないような事業をそろえた企業が誕生しつつあるのだ。
神奈川県の鶴巻温泉にある老舗旅館「陣屋」。長年の不況とリーマンショックで抱えた10億円の負債を“旅館素人”の夫婦で乗り越え、ITを駆使しつつ、業界では珍しい週休3日を実現するなど注目を集めている。
経営に就任した2009年からの3年で黒字転換を実現し、週休3日を実現した後も売り上げは伸び続けている。旅館の稼働日は半分程度になっても、売り上げが伸び続けるのはなぜか。高価格路線への変更が奏功したこともあるが、同社の基幹システム「陣屋コネクト」を外販するグループ会社、陣屋コネクトの存在も見逃せない。
立ち上げからわずか6年で、年商2億円を売り上げるまでになった陣屋コネクト。外販を始めたのは、黒字に転換して間もない2012年のこと。その理由は「従業員がシステムに満足してしまった」ためだという。
陣屋コネクトを開発した当初は、巨額の負債に苦しむ陣屋を何とかするために、自分たちが欲しい機能を作っていったが、3年もすると必要な機能がそろい、従業員にも慣れが出てきて、現場が回るようになってきたため、全く改善要望が出なくなってしまったという。
本当はまだ未熟なポイントも多いはず――。システム開発に関わった代表取締役社長(当時)の宮崎富夫さんは、陣屋コネクトをもっと進化させたいと考えていた。そんな折、陣屋コネクトがSalesforceの導入事例として大々的に取り上げられ、同業者の目にとまったことが外販のきっかけになったと女将の宮崎知子さんは振り返る。
「ありがたいことに、『すごく面白いことをやっていますね』と声を掛けてくれる方がいたんです。主人としては、いろんな方に使ってもらい、意見をもらいたいと考えていたこともあり、システムの外販を始めることになりました。最初は4社が導入したのですが、その後、100施設が導入するくらいまでは主人がキャンピングカーで全国を営業して回りました」(宮崎さん)
小さな旅館があるような観光地は、公共交通機関ではアクセスしにくい場所にあることも多い。そのため、眠くなったらいつでも寝ることができるキャンピングカーを使うことにしたのだという。車内にはプリンタも備えており、その場で契約書を作れるという徹底ぶりだ。導入施設が増えた今では、陣屋コネクトのセミナーを開催したり、陣屋を見学してもらったりするなど、“訪問しない営業”へと切り替えているという。
ITシステムの導入だけではなく、カスタマイズの代行やトレーニングといったサポートの他、料理のクオリティー向上や業務効率化、経営改革といった課題の解決をコンサルティングを通じて支援するオプションも用意している。まさに陣屋の成功例そのものを商材にするSIerと言っても過言ではないだろう。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授