「企業とエンジニアは“人の根源的な喜び”に貢献せよ」――コニカミノルタ 代表執行役社長 兼 CEO 山名昌衛氏@IT20周年企画「経営トップに聞く、DXとこれからの20年」(4/4 ページ)

» 2020年06月08日 07時00分 公開
[文・インタビュー:内野宏信/構成:編集部/写真:くろださくらこ]
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「GAFAになろうとは思わない。エッジで勝負する」――競合領域、協調領域を見定めよ

内野 では、そうした事業価値、社会的価値を創出する上で、貴社が取り組んでいるオープンイノベーション戦略においては、協調領域、競合領域をどのように考えていらっしゃいますか。

山名氏 先の話のように、われわれの各種事業に共通するのは、画像、イメージングの領域です。これをIoTに組み込んで、お客さまの現場にエッジ型でサービスを提供する。そのためにはデバイスを作り、それを通じてIoTデータを収集し、画像解析することが求められます。

 こうしたエッジとサイバーフィジカルシステムは当社の根幹をなすものですからクローズド戦略で進めることになります。この領域は高度な専門性が必要なため、データサイエンティストやアーキテクトなどグローバルで500人の人財を持っています。これを数年以内に国内外で1000人規模にしていきます。

 ただ、コネクテッドな世界では、当社だけで閉じていると顧客への提供価値は限定的になり社会課題も解決できません。そこでデバイスのインタフェースをオープンにし、パートナー企業の皆さまに多様なアプリケーションを開発いただく。そうした“オープンとクローズを組み合わせたエコシステム”の中で、当社だけではできない社会実装を進めていくことになります。

 もちろん人財育成にも力を入れています。前者の領域では、大阪府高槻市にAIや画像IoTの研究棟を2020年8月に設置予定である他、グローバルではカナダのトロント大学との共同研究を進めています。後者の領域では画像IoTのサービス開発に携わる当社の組み込みソフトエンジニア向けにAI技術を習得する研修などを行っています。

 事業のサービス化の流れが進んでいますが、当社はGAFAのようなデジタルジャイアンツになろうとは考えていません。あくまでエッジで勝負する。だからこそ、画像やイメージング領域のコア技術と、デバイスからソフトウェアまで手掛けること、そしてそのための人財戦略が重要になるのです。

CIOの役割とは何か

内野 では一方で、そうした活動を支えるIT部門やCIOにはどのような期待を持っていらっしゃいますか。一部ではITのバックボーンがないなど、そもそも日本ではCIOという役割が確立していないとも言われていますが。

山名氏 当社のCIOは、特にこの2020年4月からは、全社の経営の目線も持ちながら「DXを推進する役割」と明確に位置付けています。具体的には、社内の基幹システムは全社で広くデータを利活用するために標準化・統合化すること、周辺システムはIoTソリューションなど、多様化する社外向けサービスに有効活用できるよう設計していくことを求めています。

 というのも、事業そのものを「データを利活用するビジネス」にしていかないといけません。それを念頭に社内向け/社外向けのシステムを再構築する。そうしたITによるデータ利活用のサポートなくして、プロダクト販売という従来の製造業ビジネスから、IoTソリューションを軸とするサービスビジネスに変えていくことはできないからです。

 サービスをデリバリして、データを利活用して、それを基に新たな企画をして、「ああ、こんなことができるのか」と、ある種の感動と共に喜んでいただく。B to B to P for Pのビジネスにおいて、顧客企業は商品ベースの単発の付き合いではなく、生涯にわたって付き合っていただくパートナーになるわけですから。それを考えるとITの重要性とCIOの役割は大きい。だからこそ、テクノロジーと事業戦略の両方が分かっていないと務まらない。

 細かな技術ノウハウについては社内に多数の専門家がいます。足りない部分は外部に素晴らしい専門家がいる。ビジネスモデルの変革の中身をきちんと分かった上で、主体的にITに取り組むことが重要です。

多様なテクノロジーが登場する時代だからこそ、「強み」を自覚せよ

内野 「強み」という軸足をぶらさず、テクノロジーを使って自社独自の事業価値、社会的価値を発信し続ける。一貫したお考えを非常に強く感じます。世の中はますます複雑化し、先が予測しにくい状況になっていますが、山名さんはこれまでの20年、これからの20年をどう見ていらっしゃいますか? また最後に若いIT技術者へのメッセージをお願いします。

山名氏 過去20年を振り返れば、すさまじいICTの技術の進歩がありました。次の20年を考えると、特にAIの進展は過去20年とはレベルが違うと思います。次の20年でAIが人間のように推論、予測、判断するようになることを受けて、画像AIに注力している当社も進化を続けますが、AIが進化する中で、どこまでをAIに担わせるのかが重要なテーマになると考えます。忘れてはいけないのは「人間中心の社会を作ること」です。人に力を与えるAI社会を一企業としてどう作っていくのか、この取り組みが明確であるほど社会の賛同を呼ぶと考えています。

 一方で、AIの他、ローカル5G、AR/VRなどB to Bビジネスに多大な影響を与える技術が今後はさらに激しく変化し、拡大していきます。だからこそ、企業としての注力ポイントをしっかりと見定め、研ぎ澄ませていかなければなりません。自社におけるクローズとオープンの領域を見定めて、戦略的にテクノロジーを選定・活用していく。こうした観点で次の20年の技術を見ていくべきだと思います。

 また、このような環境にある今、若いIT技術者は非常に大きなポテンシャルを持っていると思います。グローバルで日本が輝くために、世界で存在感を放つテクノロジーを追求いただくことが、日本が復活する上で非常に大切なことだと思います。世界で戦えるIT領域を見定めて、ぜひ専門スキルの向上を目指していただきたい。

 またもう一つ、人間社会に興味を持っていただきたい。社会に広く接点を待ち、「これが困りごとだ」「これがペインだ」と自身で感じ取り、技術者として解決策を考え、提案する。これを積み重ねることで、自らのITスキルの価値ある生かし方が身に付くと思うのです。広く社会を俯瞰しながら、自ら感じ、考え、行動する技術者となっていただくことを、大いに期待しています。

インタビューを終えて

 DXの取り組みにおいて、事業価値を創出するだけではなく、「最終的に豊かな社会を実現することを考えなければいけない」と繰り返し強調されていた山名氏。今回のIoTプラットフォームを使った個別介護の事例もそうだが、例えばグローバルでも、サプライチェーンに属するパートナー企業に技術供与することで、その地域や国の発展に共に貢献し共に豊かになる、といった取り組みが同社への支持を一層厚いものにしているという。

 1980年代、日本の製造業におけるイノベーション手法を「スクラム」と名付けて論文を発表した一橋大学 名誉教授の野中郁次郎氏は、日本の経営にはCommon Good(共通善)を追求する倫理観が埋め込まれており、これが経営をサイエンスと捉える米国企業との違いであり、強みであることを指摘した。また、Common Goodという価値基準を持って最善の判断を下すリーダーシップを、アリストテレスが提唱した「フロネシス(賢慮)」という概念で説明している。こうした価値基準は、山名氏が語る通り、AI時代が本格化する中で一層重要になっていくことだろう。

 顧客と社会に寄り添うスタンスを持つコニカミノルタには、社会的価値創出にモチベーションを感じ、場合によっては他社の内定を断ってまで入社を決意する人財が、技術者に限らず多数いるという。これも“山名氏のフロネシス”故なのではないだろうか。DXとは何のために何をすることなのか――技術や短期的な利益に視野が閉じてしまいがちな中にあって、改めて深く考えてみるべきなのかもしれない。

(アイティメディア 編集局 IT編集統括部 統括編集長 内野宏信)


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