同じ状況で、同じ仕事をしていても、ストレスを感じる人と、感じない人とがいる。ストレスは平等に降りかかるとすれば、災いしているのは、ストレスそのものではないのだろうか。
職場におけるネガティブな感情のもとになっている最たるものは、「ストレス」であることは間違いない。仕事上、ストレスはつきものである。仕事の責任、納期、品質、人間関係、さらにはトラブル。増えることこそあれ、減るようにはとうてい思えない。コロナ禍の中でリモートワークとなり、これまでになかったストレスを感じている人も多いに違いない。
それらから受ける日々のストレスは、健康を害し、精神状態を圧迫し、寿命を縮めていると大半の人は考えている。また、仕事上、生産性を低下させ、創造性の発揮を妨げているともいわれる。それゆえ、何とかストレスを減らしたいと皆思っている。米ハーバード公衆衛生大学院が2014年に行った調査でも、およそ85%の米国人が「ストレスは、健康や家庭生活、仕事に悪影響を与える」と考えていることが分かった。
しかし、一方では、厳しく困難な仕事を続けながらも、落ち込むこともなければ、心身を害することもなく、日々生き生と働いている人もいる。同じ状況の中で、同じ仕事をしていても、ストレスを感じる人と、感じない人とがいる。ストレスは平等に降りかかるとすれば、災いしているのは、ストレスそのものではないのだろうか。
米エール大学の研究によると、「ストレスを害だと思っている人」は、「ストレスがポジティブな力になり得ると思っている人」よりも、気分が落ち込む傾向があることが明らかになっている。「ストレスを害だと思っている人」は同時に、腰痛や頭痛のようなストレスからくる健康問題を、他の人より多く抱えているという。また別の研究では、「ストレスは健康に害を与える」と信じている場合に、「ストレスを多く感じること」が、心臓病にかかったり、死亡したりするリスクにつながっていることが分かっている。
つまり、「ストレスを多く感じること」と「ストレスは体に害だと考えること」、この2つの組み合わせによって、心身の問題を引き起こしているといえるのだ。これとは対照的に、「ストレスを多く感じながらも、ストレスには何らかのメリットがあると思っている人」、例えば、ストレスが集中力を高めるのに役立つとか、ストレスの多い状況を経験することで自分を強くすることができると思っている人は、より健康的で、幸せで、仕事でもいい結果を収めているという。
ストレスがありながらも、それを苦とはせず、生き生きと働いている人は、ストレスを害だと捉えてはおらず、むしろストレスには多くのメリットがあると思っているということになる。結局、ストレスそのものが問題なのではなく、その捉え方こそが問題なのだ。ストレスは100%悪いものであって、減らすべきものという思い込みこそが、ストレスの悪影響を引き出している。脳神経科学の分野でも、「やりたいと思っていることから受けるストレス」は人の生産性を高めるということが分かっている。
実際に、ストレスには悪い面ばかりでなく、良い面もあることが分かっている。複数の研究によれば、ストレスは気力を高め、明晰さを増し、状況をより正確に把握できるようにする。障害を克服する過程で自信を強める効果もある。これは最も長く持続する、最も望ましい種類の自身だという。つまり、ストレスは悪者であると同時に、どうやら良いものでもあるようなのだ。命の危険にさらされた時など、極度の緊張と共に、大きなストレスが掛かる。しかしこれは命を守るための準備として必要なものに違いない。
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明治学院大学 経済学部准教授