「感情をすり減らされずに」働く極意リモートワーク時代の理想的な職場の仲間との関係性(2/2 ページ)

» 2021年06月16日 07時07分 公開
[相原孝夫ITmedia]
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 心理学者のクラムらの研究では、ある国際金融機関の400人近い従業員を対象として、ストレスに対する意識を調べた。研究者たちは、ストレスに対して異なる捉え方をする2つのグループに分けた。「ストレスはマイナスの影響をもたらすので回避すべきだ」などの言葉に賛同した「ストレスは衰弱要因」と考えるグループ。もう一方は、「ストレスを経験することは学びと成長につながる」などの言葉に賛同した「ストレスは向上要因」と考えるグループ。

 その結果、「ストレスは向上要因」と考える人々は、「ストレスは衰弱要因」と考える人々と比べて、より健康で、人生への満足度が高く、仕事のパフォーマンスでも優れていたのである。このタイプは、コルチゾールの分泌レベルが「最適」になりやすいことも明らかになった。ストレス要因に対するコルチゾールの分泌は、多すぎても少なすぎても整理的に悪影響となりうる。これらの結果から、研究者らは、「ストレスがあなたを打ちのめすのは、あなたがそうと思い込んでいるからに他ならない」と結論づけている。

 もっとマクロな研究結果もある。ストレスの多い国は経済発展しており、国民の幸福感も高いという調査結果も示されているのだ。2005年から2006年にかけて、調査会社ギャラップ社が世界121カ国、12万5000人に対して実施した世論調査によれば、ストレス指標が高ければ高いほど、国も豊かだという結果だった。「昨日、多くのストレスを感じた」と答えた人が多い国ほど、平均寿命やGDP(国内総生産)が高かった。「ストレス指標が高いほど、国民の幸福感や満足度も比例して高い」ということも、この調査結果は示していた。

 ストレスを感じる人が多いことは、一方では「健康や仕事、生活水準やコミュニティーに満足している」人が多いことを意味していたのだ。ストレスを多く感じた日には、怒りや憂鬱(ゆううつ)、悲しみ、不安を感じやすくなっていたが、同時に、ストレスを多く感じることは、喜びや愛、笑いを多く感じることとも、関係していたのだ。

ストレスは人生を豊かにする

 ストレスには良い面があると理解するだけでなく、積極的にストレスの良い面を見ようとすることが重要なのだ。困難に直面した際に、困った状況だ、何とか逃れたいと思うのではなく、学習と成長のチャンスだと捉えることで、ストレスからくる弊害を抑えられるばかりか、幸福感が増し、より健康に、そして有能になれるのだ。ストレスを減らそうと必死になる必要はない。ストレスの捉え方を変えることが重要なのだ。

 仕事に限らず、何かに真剣に取り組もうとすれば、必ずストレスは掛かるものだ。困難に挑戦しようとすればなおさらだ。ストレスから逃れるために、それらの挑戦を回避してきたとしたら、どれだけ味気ない人生になることだろう。受験も、就職も、さまざまなチャレンジも対人関係さえも、全て大きなストレスと表裏の関係にある。大きな喜びや意義とストレスとは一体なのだ。それらのストレスフルな経験がきっかけとなり、または多くのことを学び、現在の自分を形づくっている。

 過去にストレスフルな出来事を数多く経験した人は、自分の人生を有意義なものと捉える傾向が強かったという研究結果もある。ストレスは「重要な役割を果たそうとする時や、意義のある目標を追い求めた時に、必然的な結果として起こるもの」と考えられるからだ。ストレスは避けるべきものではなく、むしろウエルカムなのであり、前向きに捉えることで、多くの恩恵をもたらしてくれるのだ。

 ストレスは、問題のある状況が起こっているというサインではない。その直面していることがいかに重要であり、また自分がいかにそのことに真剣に向き合っているかのバロメーターなのだ。自分にとってどうでもいいようなことからはストレスを受けることはない。仕事でストレスを感じるのならば、仕事を大切に思っているからであって、思い入れをもっていることの証である。そうした経験は、後になってみれば必ず、自分を成長させた経験になっていたり、誇りに思える挑戦であったり、意義のあるものとなっているはずだ。

著者プロフィール:相原孝夫(あいはら たかお)

人事・組織コンサルタント、作家、HRアドバンテージ 代表取締役社長

マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング(現マーサージャパン) 代表取締役副社長を経て、2006年4月に当社設立し代表に就任。

慶應義塾大学商学部卒業、早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。

1965年生まれ、栃木県宇都宮市出身。1994年にマーサー社に入社以降、コンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、グローバル人材マネジメント、M&A後の人事・組織の融合等のコンサルティングに従事。

HRアドバンテージでは、人材・組織・仕事の可視化を軸にした、人材力・組織力の向上支援に力を注ぐ。旧労働省大臣官房政策調査部研究会委員、総務省研究会委員、日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

著書に、『バブル入社組の憂鬱』『ハイパフォーマー 彼らの法則』『会社人生は「評判」で決まる』『コンピテンシー活用の実際』(以上、日本経済新聞出版社)、『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか 』(幻冬舎)、『図解戦略人材マネジメント』(東洋経済新報社)ほか多数。

日経ビジネススクール、経営アカデミー(日本生産性本部)、早稲田大学ビジネススクール他での講義、講演、セミナーのほか、新聞、専門誌への寄稿、コメント多数。

主な著書に『会社人生は「評判」で決まる』(日本経済新聞出版社)、『ハイパフォーマー 彼らの法則』(日本経済新聞出版社)『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』(幻冬舎新書)など多数。


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