連載
» 2021年09月21日 07時03分 公開

変化の激しい現在、多様性を認めることが競争力を高める重要なカギ――SUBARU IT戦略本部 情報システム部長 辻裕里氏「等身大のCIO」ガートナー 浅田徹の企業訪問記(2/2 ページ)

[聞き手:浅田徹(ガートナージャパン), 文:山下竜大,ITmedia]
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――かなりアクティブなイメージがあるのですが、大切にしている言葉、信条など聞かせてください。

 実家が自営業で、当初は業績も好調でしたが、経営が厳しくなったときに会社を立て直したのは母親の技術と頑張りでした。事業の柱を変えたので屋号も替えましたがすぐに軌道に乗りました。小学生の頃それを間近で見て、物事が順風満帆のときには、普通に男の人がリードしてくればいいけれど、有事のときには今までの延長線上で頑張ってもダメで、女の人の力が必要になるときがある。いつか来るそのときに備えて女性も役に立つ技術や知見、実力を付けておかなければいけないと感じました。それが原点にあったかもしれません。

 また、中学生の頃落語を聞いていたら、女性が大事にされて一生幸せに生きていくためには年代毎に変化することが大事だと言っていて、子供ながらに腑に落ちたので自分の生き方の指針としました。20代はかわいい人(素直に話を聞いて学べる子)、30代は賢い人(お金のやりくりや人間関係を賢く立ち回れる子)、40代は稼げる人(リーダーとして大きな仕事ができる人)、50代は優しい人(全部分かった上で次の世代を育成できる人)が大切だというお話でとても印象的でした。

 これは、性別、業界、時代に関係ないので、講演やセミナーなどを行う際に幸せな生き方の指針の一案として紹介しています。現在、次の世代を育成できる「優しい人」になるべく訓練中です(笑い)。

――小学生、中学生の経験が、今につながっているのですね。辻さんのこうした発信は、SUBARU内にも浸透しているのでしょうか。

 まだまだ女性比率も低く、女性役職者も少ない状況なのでこれからですが、働き方改革を支える仕組みの一つとして「SUBARUコミュニケーションパーク」という企業内SNSがあります。これは、経営企画の女性のアイデアで始まり「社長のつぶやき」「雑談ひろば」「アイデアラボ」という3つのコミュニケーションの場を提供しています。

 その中のアイデアラボでは、こんな車の装備が欲しい、こんな使い方がしたい、このデザインがいいなど、女性ならではの視点でアイデアが投稿されるようになりました。女性のアイデアはあまり車づくりに重要視されてこなかったのですが、これを機に「女性目線ワーキング」が立ち上がり、入社5年の女性社員がリーダーとなって運営しています。回りの男性陣も積極的にサポートしてくれ、少しずつですが女性の声が響くようになってきました。

いざというときの団結力はSUBARUという会社の大きな強み

――入社2年でいろいろな取り組みをされているのですね。現在考えている重要課題、それを解決するための取り組み、施策などを聞かせてください。

 取り組みたいことはたくさんあります。直近では、働き方改革のためのインフラを強化しましたが、業務系ITは複雑化した老朽システムも多く、ホストからの脱却も必須です。部門ごとに部分最適で導入されたものも多く、部門間の壁で分断されている業務を効率的に全体最適で考え直すことも必要です。更にデータを活用してもらえるように環境整備や教育、RPAなどの要望も強いです。進める上で一つ課題があります。自動車業界は開発ファーストなので、ITシステムの運用ファーストとは起点が異なり、プロジェクトの進め方や合意形成が意外と難しいと感じています。自動車とITの開発の常識について、お互いの理解・融合が大事だと感じ、現在自動車の開発プロセスや業界常識の勉強中です。

 また業務システムとモノづくりをつなげることも必要です。事務方のシステム連携だけでなく、全社や外部をつなぐ横の連携とともに、実務データから経営情報までの縦の連携も重要です。自動車業界は、100年に1度の大変革期にあり、車がタイヤのついたコンピュータになっていく世界では、車の開発やモノづくり、アフターサービスにデジタルリソースを振り分けていくことが必要です。社内の仕組みはできる限りシンプルにして攻めの強化につなげたいと思います。

――今回の働き方改革を実現したことで、社内に業務プロセスの改革もできるという雰囲気はありませんか。

 火事場のばか力ではありませんが、いざというときの団結力はSUBARUの大きな強みです。世界シェア1%の小さなとがった自動車メーカーといわれていますが、社員の意識はいい車をつくることに真っすぐ向いています。もともと車が大好きな社員が集まり少年のようなキラキラした目で、とがった車づくりをしています。全社的に一点にベクトルが合っているので、有事のときでも向かうべきことがハッキリ見えたときのパワーとスピードはすごいです。純粋で真面目な社員が多いせいだと思いますが、助けてあげたくなる愛すべき会社です。

 変化しなければならない今、変化できる力を持った会社だと期待しています。情報システム部は、リモートワークの環境を用意しただけですが、利用する社員が一丸となって使いこなし全社の業務に浸透させてくれました。ITで社員を助けてあげようと思ってやりましたが、社員の皆さんが上手な使い方を考えてくれたり、口コミで広げてくれたりと逆にわれわれの方がたくさん助けてもらった気がします。

――これからのITリーダー、女性リーダーは企業の中でどのようにあるべきだと考えますか。

 車の会社なので、これまでIT部門は後方支援でしたが、これからは横に並び時には前に出る時期だと思います。車自体がコンピュータに近づいてくるので、システムの管理やセキュリティなど、車の設計のプロがIT担当者と同じ悩みを抱えることになります。ある分野では、IT部門のリーダーが中心となりサポートできることがあるのではないかと思っています。

 一方、女性リーダーに関しては、無理に前に出なくてもいいのですが、男性には見えていない角度からの視点で気づいたことをきちんと発信する訓練が必要だと思います。私も、大事なことを言ってそうだけど何言っているか分からないと言われ続けてきました。今も勉強中です。世の中の買い物の7割は女性の判断でお金が動いているといわれています。女性の感性は生かした方が得だとお互いが理解し、対等に発言できる場を増やしていきたいと思います。女性もITも会社の中でマイノリティーな存在ですが、これからの変革できっと力になれる存在だと信じています。

――最後に、次の世代へのメッセージをお願いします。

 女性は、学生時代は男女の壁を感じることなく過ごしたと思いますが、会社に入ると男女の壁があることに気が付くでしょう。それでもガラスの天井など気にせずに自由に発言したり、行動したりして大丈夫です。そして女性こそタイトルにこだわってほしい。自分も回りも仕事がしやすくなることが実感できます。

 IT部門の皆さんには、実は運用保守のスキルがとても貴重であると自覚しプライドを持ってほしいと思います。ITは運用ファーストで、ツール導入屋から改革リーダーへ意識を変えて、社員が使いこなして笑顔になるまで寄り添ってくれることを願っています。

対談を終えて

ITの世界は、まだまだ男社会です。私が受け持っているガートナーのアドバイザリサービスでも、メンバーの大半は男性です。そうしたなかで、辻様のような素晴らしい業績をあげておられる方は、どれだけ突っ張った方かと思いきや、微塵もそのようなところがありません。まさに、辻様がおっしゃる、素直な20代に、賢い30代、稼ぐ40代、そして育成する50代がひとりの人間に融け合わさったと思わせる方で、本当に自然な会話をさせていただけました。なかなか誰にでもできることではないと思いますが、女性のITリーダーが、今の状況を受け入れつつ、その中で自分の持てる力を発揮して成果を挙げるには、辻様のようなスタイルが、一つのモデルになるように思いました。

プロフィール

浅田徹(Toru Asada)

ガートナージャパン エグゼクティブ プログラムリージョナルバイスプレジデント

2016年7月ガートナージャパン入社。エグゼクティブ プログラム エグゼクティブパートナーに就任。ガートナージャパン入社以前は、1987年日本銀行に入行し、同行にて、システム情報局、信用機構室、人事局等で勤務。システム情報局では、のべ約23年間、業務アプリケーション、システムインフラ、情報セキュリティなど、日銀のIT全般にわたり、企画・構築・運用に従事。とくに、日本経済の基幹決済システムを刷新した新日銀ネット構築プロジェクト(2010年〜2015年)では、チーフアーキテクトおよび開発課長として実開発作業を統括。2013年、日銀初のシステム技術担当参事役(CTO:Chief Technology Officer)に就任。日銀ITの中長期計画の策定にあたる。

2018年8月、エグゼクティブ プログラムの日本統括責任者に就任。

京都大学大学院(情報工学修士)および、カーネギーメロン大学大学院(ソフトウェア工学修士)を修了。


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