デジタル経済に30年遅れた日本企業必読の2冊――ウォンツアンドバリュー 永井孝尚氏ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

成功する起業家や経営者には読書家が多い。それでは、どんな本を読んでいるのか。世界の起業家が読んでいる経営理論の必読書50冊とは。

» 2022年03月08日 08時20分 公開
[山下竜大ITmedia]
『世界の起業家が学んでいるMBA経営理論の必読書50冊を1冊にまとめてみた』

 ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、ウォンツアンドバリュー 代表の永井孝尚氏が登場。2021年11月に発行された著書「世界の起業家が学んでいるMBA経営理論の必読書50冊を1冊にまとめてみた(KADOKAWA)」の内容に基づき、ビジネスで成功するセオリーについて紹介した。

2冊の本に書かれていた、日本経済の真の敗因とは

ウォンツアンドバリュー 代表 永井孝尚氏

 勉強会のテーマでもある永井氏の著書『世界の起業家が学んでいるMBA経営理論の必読書50冊を1冊にまとめてみた』は、世界の起業家が読んでいる経営戦略書50冊を選び、1冊あたり6〜8ページで紹介するMBA必読書50冊シリーズの第3弾。ちなみに第1弾は『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた(KADOKAWA)』、第2弾は『世界のエリートが学んでいるMBAマーケティング必読書50冊を1冊にまとめてみた(KADOKAWA)』である。

 「成功する起業家や経営者には、読書家が多くいます。有名なのはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏。年に2回別荘にこもり、読書と思考に集中することを続けています。またファーストリテイリング創業者の柳井正氏は、16時に仕事を切り上げ、帰宅後は読書をしています。多忙な彼らが読書に時間を割くのは、ビジネスの勝ちパターンや問題解決策の多くがすでに本に書かれているからです。そこでこの150冊を理解すれば、ビジネスで出会う多くの問題解決方法が分かります」(永井氏)

 具体的にはどんな書籍があり、どのように役立つのか。勉強会では、『無形資産が経済を支配する 資本のない資本主義の正体(ジョナサン・ハスケル、スティアン・ウェストレイク共著/東洋経済新報社)』および『情報経済の鉄則 ネットワーク型経済を生き抜くための戦略ガイド(カール・シャピロ、ハル・ヴァリアン共著/日経BP)』の2冊が紹介された。

 「この2冊に書かれているのは、日本経済が直面している“失われた30年”の真の敗因です。現在、世界で大きな成功を収めている企業は、この30年で大きく成長しています。1994年にはAmazon、1998年にはGoogle、そして2004年にはFacebookが創業しました。彼らは、この2冊の内容を理解した上で、その鉄則を守りデジタル経済に最適化することで、世界の覇者になりました。一方で多くの日本企業は、1995年のインターネット革命から27年もたっているのに、まだ“無形資産”や“情報経済の鉄則”を理解していません。そのため、失われた30年から抜け出せないのです」(永井氏)

有形資産とは大きく異なる無形資産の4つの特性

 『無形資産が経済を支配する 資本のない資本主義の正体』は、英国の2人の経済学者により、2017年(日本での初版発行は2020年)に書かれたもの。永井氏は、「ビル・ゲイツ氏は、“従来の考え方で説明できないことが増えて世の仕組みやルールが追い付かず、大きな問題が起こる理由を理解する上でイチオシ”と話しています。この1〜2年で日本経済新聞でも無形資産の重要性が取り上げられるようになりましたが、マイクロソフトの時価総額26兆円が世界で第1位だった2006年時点で、すでに有形資産は時価総額全体のわずか1%でした」と話す。

 無形資産とは、コンピュータ化情報(ソフトウェアやデータベースの開発など)、イノベーション財産(研究開発や試作品の製作など)、経済能力(人材研修、調査など)の3つである。これらは経費計上されるので、バランスシートには資産として計上されないという特徴がある。一方で有形資産は通常バランスシートに資産計上され、減価償却される。そして世界全体で見ると、有形資産投資は下がり続け、無形資産投資は上がり続けているのだ。

 この無形資産には、有形資産と大きく異なる、以下の4つの特性(4S)がある。

(1)スケーラブル(Scalable:拡張可能性)

 無形資産は一度作れば何度も同時に複数箇所で使える。例えばスターバックスの基本メニューを1カ所で作れば、全ての店舗で利用できる。

(2)サンクコスト(Sunk cost:埋没費用)

 無形資産は撤退時の費用回収が困難だ。例えば映画の製作を途中で止めると、そこまでの製作費は回収できない。

(3)スピルオーバー(Spill over:波及効果)

 無形資産は模倣が簡単で、すぐに業界に拡がる。例えばスマートフォンのデザインは簡単に模倣できる。これは有形資産になると模倣はより困難になる。

(4)シナジー(Synergy:相乗効果)

 無形資産はアイデアの組み合わせで相乗効果を発揮し、大きな価値を生み出すことができる。

 無形資産には、この4つの特性があるため、「不確実性」「紛争性」という2つの性質を持つ。無形資産は、スケーラブルで、どんどんコピーでき、波及効果があり、アイデアの組み合わせで価値もどんどん大きくなる。成功すると爆速で拡大する。しかし失敗すると撤退時にコストを回収できない。そこでリスク管理が重要だ。最初は小さく投資をして、成功が見えれば大きく投資をするリアルオプション戦略が必要になる。

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