デジタル経済に30年遅れた日本企業必読の2冊――ウォンツアンドバリュー 永井孝尚氏ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)

» 2022年03月08日 08時20分 公開
[山下竜大ITmedia]
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 もう1つは、紛争性だ。永井氏は、「AndroidがiPhoneを模倣したと、スティーブ・ジョブズ氏が激怒したという話があります。これも紛争性の一つの現象です。課題は、知財で徹底して戦うのか、オープン戦略で協業するのかを考えていくことです。デジタル巧者の企業が指数関数的に成長できるのは、4Sを使いこなした結果です。ビル・ゲイツ氏がこの本を推奨するのも、本書が無形資産が経済にもたらす原因と結果を明確にしているからです」と話す。

 本書では、2001年以降にフロンティアトップ100企業と非フロンティア企業では、労働生産性に大きく差がついている状況を示している。しかし、デジタル化が苦手な企業もある。では、デジタル化を進めるには何を考えればよいのか。永井氏は、「そこでおすすめしたいのが『情報経済の鉄則』です」と言って、2冊目の本を紹介した。

情報経済の鉄則では、戦略的に4つの視点が重要

 『情報経済の鉄則 ネットワーク型経済を生き抜くための戦略ガイド』は、米国の2人の経済学者により1998年に書かれたもの。(日本での初版発行は1999年、2018年に復刊)永井氏は、「この本は、24年前に世に出ています。ジェフ・ベゾス氏やアンディ・グローブ氏が“絶対に読むべき”と推奨しています。情報経済は、モノ経済とはまったく違う特性を持っているのです」と話す。

 情報財は生産コストが高い。さらに生産コストは埋没費用となる。例えば映画を作る場合、制作に莫大な費用がかかる上に、映画が公開できないと費用は回収できない。しかし、2つ目、3つ目のコピーを作る再生産コスト(限界費用)はほぼゼロになる。モノ経済は違う。例えば自動車は、試作品にも、量産品にも生産コストがかかる。つまり再生産コスト(限界費用)はそれなりにかかる。アイデアは1つ目に時間とお金がかかるが、コピーするのは簡単、ということだ。さらに情報財は経験財でもあり、顧客に経験してもらうことが重要になる。まずこれらの特性を理解することが出発点だ。

 そこで情報財では、4つの戦略的視点が重要になる。

(1)価格設定

 価格はコストで決めずに、顧客の価値に応じて決めるバリュープライシングを徹底することが重要になる。基本的な考え方はバージョン化である。ニーズの高いものにはハイエンド版、ニーズの低いものにはローエンド版として提供する。このとき、ハイエンド版の魅力を徹底的に高め、ローエンド版の魅力は下げることが最大のポイント。ローエンド版が魅力的だと、ハイエンド版が売れなくなってしまう。

(2)知財管理

 デジタル化により、再生産コストも流通コストもほぼゼロになる。そこでデジタル技術を使い倒して、情報財の良さを生かすことが重要。例えば、価格1000円、流通コスト500円、1000本売れて利益50万円のモノ販売を、価格が10分の1のダウンロード販売にして、10倍売れば利益を2倍(価格100円、流通コスト0円、1万本売れて利益100万円)にできる。知的資産を過剰に保護しないことが、市場拡大につながるのだ。

(3)スイッチングコスト

 Windows PCからMacに移行する場合、互換性がないので設定やデータの移行が大変になる。これがスイッチングコストの一例だ。情報財は一般にスイッチングコストが高いので、乗換に一苦労する。この結果、ユーザーをロックインできる。そこでさまざまな手段でロックインして顧客を囲い込むカギを持てば、企業は莫大な利益を得ることができる。GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)は、非常にうまく囲い込みを行っている。

(4)正のフィードバック

 ユーザー数が多いほど、商品の価値が高まる。古くはビデオデッキのVHSとベータマックスの戦いでは、より多くの利用者を獲得したVHSが圧勝した。ユーザーが将来性があると思えば購入する人が増えるし、逆に将来性がないと思えば購入されない。こうして正のフィードバックにより情報財は普及が加速する。さらにネットワークの外部性が大きく影響する。「ユーザー数n人のネットワークの価値は、n×(n-1)に比例する」というメトカーフの法則によって、ユーザー数が2倍だと価値は約4倍になり、ユーザー数が10倍だと価値は約100倍になる。このようにユーザー数を増やし続けると爆発的に収益性が高まる。そこでユーザー数を増やし続けるサイクルを維持するために、ファイナンス戦略(資金調達戦略)も学ぶことが必須となる。この世界をちゃんと理解して、市場を制覇したのがGAFAMなどである。

 永井氏は、「モノ経済では、寡占化まではいけますが独占はできません。しかし情報経済では、独占も可能です。日本企業でも、ソニーや日立、Zホールディングス(Yahoo!)、サイバーエージェント、リクルートなど、情報経済の世界を理解して、世界に挑戦している会社もあります。日本企業は情報経済に乗り遅れてきましたが、数年で市場が一変するのが情報経済です。これからがチャンス、そして常にチャンスです。情報経済を理解して、ぜひ挑戦しましょう!」と締めくくった。

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