第2回 ドラッカー「部下と上司はお互いに考えが違う」ドラッカーに学ぶ「部下を動かそうとする考えは時代遅れ」(1/2 ページ)

時代の変化の中にあって、部下はどうあるべきか。そして今、上司に求められているものは何か。上司と部下は、お互いどんな関係でいるべきなのだろうか。

» 2022年05月23日 07時04分 公開
[山下淳一郎ITmedia]

 前回は、「部下をつぶす上司と部下を生かす上司の違いとは?」という趣旨の話をした。必要なものは、「部下をいかに管理するか」ではなく「部下をいかに自立させるか」だ。第2回は、「部下と上司はお互いに考えが違う」というテーマでお話ししたい。

上司と部下の関係が悪くなる原因

上司の関係が理由で職場を変える人

ピーター・ドラッカー氏(トップマネジメント株式会社)

 「親と上司は選べない」誰しも一度は聞いたことのある言葉だろう。今ある環境の中でベストを尽くすしかない。そんな教訓を促してくれる言葉として受け取れる。

 日本に根付いてきた家長制度や、武家社会で築かれた厳格な主従関係から、上には従う以外にない。当然、組織の一人として働くからには、上の方針には背けないし、上司の指示を無視できない。

 今も親は選べないことは変わっていない。しかし、今日の社会にあっては、上司は選べなくとも、我慢ならない上司と縁を断ち切ることが可能になった。そう、転職だ。現在、多くのビジネスパーソンが転職をしている。転職する理由の多くは、人さまざまで一様に語ることはできないが、上司との関係が理由で職場を変える人は少なくないという。

上司と部下は貢献し合う関係

 時代の変化の中にあって、部下はどうあるべきか。そして今、上司に求められているものは何か。上司と部下は、お互いどんな関係でいるべきなのだろうか。

 ドラッカーはこう言っている。

「上役と部下は、お互いに貢献し合う関係である。すなわち、上役に自分が何をプラスすることができるか。逆に、上役から自分にプラスになるものとして何を奪えるかという関係である。このバランスが崩れれば、上役であること、あるいは、部下であることに意味がなくなる。」

 どちらかがどちらかに、マイナスを感じた時点で、関係は終わるということだ。当然、あらゆる人間関係が価値的であり、生産的でなければならない。上司は、部下に、何をどう貢献すればいいのか。それを今からお伝えしていく。

お互いの考えを確認しないことは実に恐ろしい

お互いの考えを確認しない

 「上司の仕事は部下をうまく動かすこと」「上司の仕事は部下に指示を出すこと」。そんな時代があったが、過ぎ去って既に久しい。そんな慣習のなごりなのか、お互いの考えを確認する必要性について、上司側がまだその理解に至っていない。お互いの考えを確認し合わないことは、実に恐ろしい。

 ある企業でこんなことがあった。大きな人事異動があり、長年、営業部長を務めた山田さん(仮名)は、営業本部長に昇格した。彼は1つの営業部隊だけでなく、5つの営業部隊を率いるようになった。その山田さんを支えてきた鈴木さん(仮称)は、課長から部長に昇格した。鈴木さんは、山田さんが率いてきた営業部隊を引き継ぎ、その部署の責任者となった。

 「部長をやって1年後に結果が出なかったら部長を降りる。それくらいの覚悟で取り組んでほしい」。営業本部長は営業部長にそう激励をした。2人の間には長年築き上げてきた信頼関係がある。部長は「成果を出せなかったら辞めろ」とは受けとらなかった。本部長である山田さんからの激励と解釈し、決意を新たにした。

 1年後、本部長は部長に対して「彼は結果を出せていない」という認識を持った。部長は「それなりと結果を出せた」という認識を持っていた。ある日、「君は結果を出せていない」「いいえ、結果を出しています」という議論になった。それは、もはや感情的な“ぶつかり合い”だった。

階層の違いによる関心の違い

 お互いがお互いに憤慨するという事態になった。なぜ、このような認識違いが起こってしまったのか。部長は「前年度よりも売上の額を上げること」が自分があげるべき成果であると考えていた。事実、部長は身を粉にして前年度よりも売上の額を上げるために全力で仕事に当たった。

 本部長の考えはそうではなかった。営業部員の全員が自分の売上を上げることに責任をもって動いている。営業部隊とはいえ営業部長ともなれば、売上を上げることだけが成果ではない。役職の重みから、ただ売上さえ上げていればいい、というわけにはいかない。本部長は「新任の営業部長は、新しい事業を起こし、新しい売上をつくること」が、部長のあげるべき成果だと考えていた。本部長は、「自分が頭に描いたものを部下が実現してくれるという思い込み」から抜け出せなかったのだ。

 なぜ、このようなことが起こるのだろうか。どちらがいけないかを議論しても意味はない。何が原因かを究明したい。

 ドラッカーはこう言っている。

 「階層によって仕事と関心に違いがある。この問題は善意や態度では解決できない。コミュニケーションの改善でも解決できない。」

成果に対する考えの違い

 「部長をやって1年後に成果が出なかったら部長を降りる」。それくらいの覚悟をもって取り組むことに対する合意はあったものの、肝心な成果の内容について、2人の間でなんら確認はなされてなかった。本部長は、「命令する人」、部長は「命令に従う人」という慣習は変わっていなかった。長年培われてきたその慣習があだとなり、本部長と部長の間に十分な意思の疎通はなく、成果に対する両者の考えが合致していなかった。

考えを確認しないリスクは意外にも大きい

 長年、築き上げてきた良好な関係は、一瞬に崩れた。まさにこれが、上司と部下の関係が悪くなる原因の1つである。お互いの考えを確認しないリスクは意外にも大きい。部長は上司である本部長に愛想をつかし、競合会社に転職してしまった。

 ドラッカーはさらにこう言っている。

 「はっきりしていることは、部下と上司では、考えが違うということを互いに認識しあわない限り、いかなる意思の疎通も不可能だということである。」

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