人生100年時代を迎え、特に40〜60代の大人の学びが注目されている。2019年には専門職大学がスタートし、2022年4月現在、日本全国で19校に広がっている。いま大人の学びが注目される理由とは。
ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、マンガ家で、前・京都精華大学 マンガ学部 教授のすがやみつる氏が登場。同氏は、2005年に早稲田大学 eスクールに入学し、2009年に卒業。その後、大学院修士課程へ進み、2011年に修了し、京都精華大学 マンガ学部 教授に就任した。その間の経験を生かし、「おとなの学び方とおとなの教え方」をテーマに講演した。
すがや氏は1950年、静岡県で生まれ、マンガを描き始めたのは小学生のとき。高校のころから東京に出てきて、石ノ森章太郎氏などの指導を受けていた。すがや氏は、「高校卒業と同時に編集プロダクションなどに勤務していました。その後、石ノ森先生のプロダクションに参加したのですが、1971年に仮面ライダーのテレビ放送が開始され、石ノ森先生が忙しくなったので、仮面ライダーのマンガでデビューしました」と当時を振り返る。
その後、独立して児童マンガを中心に制作。代表作に『ゲームセンターあらし』がある。同作は、1982年にアニメにもなり、すがや氏は主題歌も作詞している。また、1982年、および1983年には、プログラミング言語のBASICによるプログラミングをマンガで紹介する『こんにちはマイコン』というマンガを2作発表した。1982年、『ゲームセンターあらし』と『こんにちはマイコン』は、小学館が主催する「小学館漫画賞」を受賞している。
すがや氏は、なぜ50代で大学生になったのか。理由の1つは、2000年に京都精華大学の芸術学部にマンガ学科が新設されたことである。京都精華大学のマンガ学科は、競争率20倍以上という大人気で、ほかの大学でも次々とマンガ学科が新設されたことから教員が引く手あまたとなり、すがや氏にも3つの大学から依頼があった。しかし同氏は、全ての依頼を断っている。その理由を次のように語る。
「高卒でマンガ家になり、大学で年に1〜2回講義をしたことはあるものの、自分でカリキュラムを作り、メソッドを決めて講義をしたことがなかったので、これまでの経験だけで講義をするのはおこがましい、学生にも失礼ではないかと思い、全て断りました。2004年にテレビで早稲田大学のeスクールの存在を知り、大学も経験してみたかったので、2005年にeスクールの3期生として入学しました」(すがや氏)
eスクールでは、教育工学を専攻。2009年に同学部を卒業し、大学院の修士課程に進み、2年で修士論文を書きあげ、2011年3月に卒業した。2012年より、京都精華大学から依頼により、マンガ学科の非常勤講師を1年経験。2013年より同大マンガ学科の教授になり、2021年に70歳で定年退職した。すがや氏は、「50歳を超えて大学に入り、大学院まで出たことで、問い合わせが増え、講演やイベントなどへ出演が増えています」と話している。
いま大人の学びが注目されている。理由は人それぞれだが、その1つに「大学の教員になりたい」というものがある。これまで培った経験を生かし、大学で教えてみたいと漠然と考えている人は多くいる。特に多いのが40〜60代という。自信もあり、チャンスだと思っているのでしょうが、ここには落とし穴もあり、いま大学の教員に求められているのは、研究の経験があるかどうかだ。
「私は遅ればせながら修士課程まで進んだのですが、大学は教員が学生に教える、学生は教員に教わるという関係ではなく、ともに研究することが必要です。私の場合、eスクールで21世紀の研究の方法を学べたので教員になっても、以前から大学にいる教員とも話が通じました。研究経験なく社会人から教員になると、以前から大学にいる教員とあつれきが生まれる可能性があります。そこで注目されているのがリカレント教育です」(すがや氏)
リカレントとは、「繰り返す」「循環する」という言葉だが、生涯教育とは似て非なるものである。リカレント教育とは、大学などの教育機関で学び、修士、MBAなどの学位や資格を取得するための教育である。そのための専門職大学院もあるが、いきなり大学院に入るのはかなりハードルが高い。そこで再度、大学の学部に入り直し、リカレント教育を受ける社会人が増えているという。
「50代以上になると、かつて大学時代に学んだことが、いまの学習体系とは違うので戸惑うことになります。そこで会社を休退職し、リカレント教育機関で社会人学生として学ぶ、大学院であれば、休退職しないで学ぶこともできます。夜間や休日を対象に授業を行っている大学も増えており、通信制の大学やeスクール、放送大学、サイバー大学などで学んでいる人もたくさんいます」(すがや氏)
eスクールの生徒は、平均年齢が40歳を超えており、約4割は初めてだが、残りは複数の大学を経験している。すがや氏は、「eスクールで、学んだ“おとなの学び方のコツ”は、まずメンタル面でプライドを捨てることです。私自身、マンガ家で、小説や専門書なども書いていたので、レポートや論文は楽勝だと思っていたのですが、ビジネス文書と学術文書はまったく違うもので、若い教育コーチに無残に赤を入れられました。
読みやすい文書でしたが、学術文書ではなかったことが最大の原因です。このときプライドを捨て、素直になり、愚直になることが必要だと感じました。その後、教育コーチになり、社会人学生の論文を添削したのですが、特に大企業の部課長クラスはプライドが高く、添削をすると怒り出す人もいました。私自身は素直になるために、自分は18歳だという暗示をかけ、18歳になるためにエレキギターを買いました(笑い)」(すがや氏)。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授