ものづくり経営学の基本は「良い流れ」の現場力と「良い設計」の構想力である(2/2 ページ)

» 2023年04月19日 07時03分 公開
[山下竜大ITmedia]
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 CAP分析の最後は、産業現場のCapability(ものづくり組織能力)の分析である。歴史的な理由(例えば「移民に頼らぬ高度成長」)により、戦後の日本産業には統合型ものづくりの組織能力がより多く蓄積されており、トヨタ生産方式はその代表例である――これが組織能力分析の出発点である。

 組織能力構築による現場の「流れ改善」は、まず正確な「付加価値の流れ図」を描き、皆で共有し、その上に流れを良くする「組織ルーティン」を描きこみ、逆に流れの悪いところを特定することを出発点とする。藤本氏は、「ものづくりとは、基本的には付加価値を担う設計情報の流れを作ることで、その良い流れを作るのが『ものづくり組織能力』です。例えば、延べ100万人が100円以上の価値ありと評価する設計のコップがあり、その直接材料費が30円とすると、経済学的には1個当たり付加価値は70円、全体では売上額1億円のうち7000万円の付加価値の『流れ』が発生しますが、設計論的に言えば、顧客が評価した設計情報の価値が1個あたり70円、その設計情報の媒体の費用が30円、合計100円ということです。つまり、付加価値は設計情報に宿るのです」と話す。

日本の宝である「三方良し」とトヨタ方式を組み合わせる

 CAP分析の応用編として、変化の激しい現在、Sustainable(サステナブル)、Digital(デジタル)、Global(グローバル)という3要素の相互連関を視野に入れた「大きなSDGの方程式」を常に意識し、この連立方程式を粘り強く解き続けることが企業経営・産業振興にとって大事だと指摘している。

 Global(グローバル)では、日本の産業現場が「設計の比較優位」を持つ産業分野から攻めるアーキテクチャ戦略を採る。Sustainable(サステナブル)に関しては、いわば日本の宝である、売り手良し、買い手良し、世間(地域)良しの「三方良し」経営思想と、トヨタ的ものづくり組織能力を組み合わせた「サステナブル・リーン生産システム」を維持発展させる。Digital(デジタル)では、前述の3層構造モデルにおいて、日本の統合型現場が得意な擦り合わせ型製品を起点として、上空・低空・地上を攻略するのが日本のデジタル化戦略の基本形である。

 (1)上空戦略:統合型ものづくり組織能力と適合的な擦り合わせ型製品(中インテグラル型)を自社標準(外モジュラー型)でプラットフォーマや有力補完財企業に売り切る。

 (2)低空戦略:もともと競争力のあるインテグラル型の物財を「売りっぱなし」にせず、顧客(アセットユーザー)とのコントロール・データの共有により顧客プロセスを常時改善するソリューションビジネスで、収益構造を改善する。

 (3)地上戦略: 得意なインテグラル製品の複雑な変種変量変流生産を行う現場能力を「協調型スマート工場」のサイバーフィジカルシステムとチームワークで強化する。

日本が得意な擦り合わせ型製品の変種変量変流生産を生かすのが地上戦略の基本。

 藤本氏は、「強い現場(コテコテのものづくり能力構築)と強い本社(しぶといアーキテクチャ戦略)の合わせ技で、感染症・脱炭素化・デジタル化・米中摩擦のSDG時代を乗り切るのが基本です。日本には、冷戦終結後、グローバルコスト競争の30年間持ちこたえた強い現場があり、その「ものづくり組織能力」と「裏の競争力」が出発点です。しかし現場が頑張るだけでは不十分です。本社が良く練られた設計構想を持ち、独自のアーキテクチャ戦略を進めることが必要です。日本の有力企業は、概して高い現場力は持っていますが、その多くに欠けているのは、明確なアーキテクチャ戦略、つまり設計の構想力です。現場力や技術力に加えて「設計センス」の良い日本企業がもっと増える必要があります、増えてくれば、2020年代は、日本の産業・企業にとっても面白い時代になります」と話している。

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