“人”をエンパワーメントするDXで不動産業務を革新、週休3日を実現した秘訣とはITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

創業53年、鳥取県でトップシェアを誇る不動産会社ウチダレック。週休3日を導入するなど、DXで業務改善を実行し営業利益を2倍にするという結果を出している。いかにして実現したのか。

» 2023年07月12日 07時01分 公開
[松弥々子ITmedia]
『仕事のムダをゼロにする 超効率DXのコツ全部教えます。』Amazon)

 ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、ワークデザイン代表取締役 兼 ウチダレック専務取締役である内田光治氏が登場。2021年6月23日に発刊された著書『仕事のムダをゼロにする 超効率DXのコツ全部教えます。』の内容に基づいて、『鳥取の不動産会社がレガシー企業から「週休3日」のDX先進企業になれたワケ』をテーマに講演した。

 創業53年、鳥取県で地域管理シェア20%というトップシェアを誇る不動産会社ウチダレック。このウチダレックは、3代目の専務取締役である内田光治氏陣頭指揮のもと、不動産業界で週休3日を導入するなど、DXで業務改善を実行。そのうえで営業利益を2倍にするという結果を出している。

人口減少の時代に、働き方に着目してDXを断行

ウチダレック 専務取締役 内田光治氏

 「1926年に世界で初めて1日8時間労働、週5日勤務を導入したのが、フォード社のヘンリー・フォードです。彼は『週5日労働がゴールじゃない。1日8時間労働だってやり過ぎだ』という言葉を残しています。約100年前に、今の、週5日・1日8時間労働という現代の働き方のベースができて以来、私たちの働き方は100年前からそんなに変わっていません」(内田氏)

 働き方は変わらないが、世界の在り方は大きく変わっている。特に人口はどんどん減っているという現状がある。政府の推計によれば、日本の人口は、50年後には3分の2になるといわれている。地方では既にその波は広がっており、ウチダレックのある鳥取県米子市では、2005年をピークに20〜30代の人口が25%も減少しているという。

 「賃貸仲介を行う不動産会社というのは、人口増加を前提としたビジネスモデルです。現在、10年前と比べると賃貸の家賃も15%下がって来ているので、仲介手数料なども必然的に15%下がり、これまでと同じ業務を行っていても、収入が減ってしまいます。人口減少という現状を踏まえたうえで、ビジネスモデルを変えていかなければなりません。そのためには、DXで働き方を進歩させる必要も出てきます」(内田氏)

 ウチダレックではDXによる経営改革で、週休3日、営業利益2倍、コスト40%減、離職率を3%まで下げることができたという。

 「うれしかったのは、離職率が3%まで下がったことです。不動産業界では大体18%の離職率なのですが、その6分の1まで下げることができました。これから人材不足の時代に入り、採用が厳しくなってくるといわれているなかで、人材の定着率が高いというのは、企業の存続には非常によいことだと考えています」(内田氏)

中小企業でDXが進みにくい理由

 地方の中小企業はDXが進みにくいといわれる。その理由はどこにあるのだろうか。

 「会社全体を理解して、経営戦略とデジタルをひも付けて統合していくDXは、地方の中小企業では、非常に難しい取り組みです。地方の中小企業では、トップセールスで営業力の強い社長が営業以外のことを担当者に丸投げし、業務の全体像が誰にも分からなくなってしまうことが多いのです。これが中小企業でDXが進まない理由の1つです。もう1つは、地方の中小企業では、社内のDX人材の採用、育成は不可能に近いということ。地方ではIT人材を採用するのは本当に困難です」(内田氏)

 IT人材も少ない地方では、DXを推進するのに欠かせないのが、“適切なツール”や“パートナー”となる。

 「クラウドのシステムやコンサルティング会社などの外部資源を使うのがすごく大切です。なぜかDXは社内でできると思ってしまう会社も多いのですが、特に中小企業などの小さな組織であればあるほど、外部の力を借りた方がうまくいきます」(内田氏)

ウチダレックのDX導入

 現在は、DXを成しとげたウチダレックだが、最初からうまくいったわけではない。内田氏が改革を始めた当初は、社員の激しい抵抗にあい、嵐のような批判が寄せられ、退職したベテラン社員もいたという。

 「そんな批判の中、どうやってDXを進めたかと言いますと、DX(Digital Transformation=デジタルを用いた変革)のXに注目し、“変革”に力点を置きました。何をしたいのか、時代の変化に合わせてどう組織を変えなければならないかを考えて、そのために必要なデジタル施策を打つ、デジタルツールを導入するということが必要です」(内田氏)

 内田氏は、DXの本質は「エンパワーメント」だと考えているという。それぞれの社員が持つ潜在的な力を引き出すために、デジタル化を進めるのが、DXなのだ。

内田氏

DXのポイント1「人に着目」

 「われわれはDXのために“人”に着目しました。そのためのキーワードが楽天大学 学長 仲山進也氏のセミナーから引用した『1.1』と『上機嫌』です。1.0を人間の普通の状態とすると、1.1はちょっとポジティブな状態、0.9はちょっとネガティブな状態です。1.1の人と0.9の人がいた場合、掛け合わさると『0.99』になります。ダークサイドの力は強いので、不機嫌でいないことが大切です。そのために、DXによる働き方改革で、1.1の上機嫌な人を増やすことに注力しました」(内田氏)

 0.9の人が11人いるチームではチーム力は『0.31』だが、1.1の人が11人いるチームではチーム力は『2.85』と、約10倍の差がついてしまう。社員が上機嫌で働ける環境を作り上げた会社は、企業としての基礎能力が上がっていく。

 「クラウドを活用してDXが進むと、業務が仕組み化、見える化されて、自分の必要な業務に集中できるようになり、無駄な仕事がなくなります。結果としてパフォーマンスも上がり、みんなが上機嫌になり、笑顔になります。そして、1.1の掛け算で飛躍的に組織が成長し、成果が発生します。DXというとクラウドを活用するところまでしか考えない企業が多いのですが、重要なのはその先の、デジタルが浸透することで社員が上機嫌になり、組織が元気になる、ということなんです」(内田氏)

 ウチダレックでは、「DXは社員が『1.1』『上機嫌』でいるための基礎」であり、そのために『マルチタスク』『週休3日』『人事評価』という3つの施策を実行している。

 「従業員満足度調査をしてみたところ、DXと週休3日を掛け合わせることで、大幅な満足度上昇が起こりました。業務効率の上昇率は100%、部門を超えてのコミュニケーション、仕事に対する意欲、プライベートの充実度もそれぞれ75〜76%上昇しています。また、社員が前向きに変わってくれたことで、離職率も3%となりました」(内田氏)

DXのポイント2「真ん中にCRMを配置」

 カクシンクラウドというクラウド型賃貸情報管理システム(CRM)を作ったことで、チームとして情報を見える化し一元管理ができるようになった。参考としたのは、星野リゾート代表の星野佳路氏が監訳者となっているケン・ブランチャードの『1分間エンパワーメント』だという。

 「この書籍では3つの鍵として、次の3点があげられています。『全ての社員と情報を共有する』『境界線によって自律した働き方を促す』『セルフマネジメント・チームを育てる』。この3つを実現するための基礎というのが、DXとCRMによる業務の見える化・仕組み化だと思っています。『エンパワーメント』を実現させるために、私たちが力を入れたデジタル施策がCRMです」(内田氏)

クラウド型 賃貸管理システム「カクシンクラウド」
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