経営学者ピーター・ドラッカーの理論に基づき経営チームのコンサルティングを行う、トップマネジメント代表取締役の山下淳一郎氏。知識労働者が9割を超える現代において、「上司が継続すべき2つのこと」とは?
ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、トップマネジメント代表取締役の山下淳一郎氏が『ドラッカーに学ぶ「部下に成果をあげさせる上司5つの実践」』全3回の最終の講演を行った。最終回のテーマは「上司が継続すべき2つのこと」。果たして上司が継続すべきこととは何なのだろうか。
これまでに2回行われてきた『ドラッカーに学ぶ「部下に成果をあげさせる上司5つの実践」』の公演では、産業革命以降変化を遂げた、現代の労働者の在り方について語られてきた。簡単に前回までの内容を振り返っておこう。
産業革命以前は、ほとんどの労働者は単純労働者(マニュアルワーカー)だったが、現在は知識労働者(ナレッジワーカー)が増えて、約90%を占めている。知識労働者をマネジメントする際、上からの指示・命令で動かそうとしても、成果は上がらない。知識労働者をマネジメントする際に重要なのは、本人に自発性を持たせることである。部下に権限と責任を与えて「自分の仕事の最終責任者は自分なんだ」という自覚を持たせ、自分で仕事のやり方を決める「自己決定感」を与えなければいけない。そのため、部下が成果を上げるために「部下を方向づけすること」が上司にとってたった1つの重要な仕事となる。
また部下が「自分の果たすべき仕事は何か」、「何に集中すればいいか」を理解していなければ、成果を上げることも難しい。そのため、上司は部下に「果たすべき仕事」と「集中すべき業務」を理解させる責任があるのだ。ここまでが、前2回の講演の要点となる。
「自らの貢献を評価できるようにすることである。自らの貢献度を評価させ、判断させなければ、彼らを貢献に向かわせることはできない」
ピーター・ドラッカー
ドラッカーは、部下に自らの仕事の評価を判断させなければならないと語っている。この評価とは、人事評価のことではない。自らの仕事の良し悪しを判断できることを意味している。仕事の良し悪しを測るには、「成果」というものが必要となる。
単純労働の場合、達成すべき成果というのはあらかじめ決まっている。オレンジの種を植えればおのずとオレンジの実がなり、予想外にリンゴの実がなるということはありえないからだ。また、単純労働は、品質管理が確立されているため、「合格品」と「不合格品」の規定も明確となっている。そのため、仕事の合否の判断も明確にできる。
しかし、知識労働の場合は、考え方や仕事の方向によって達成されるべき成果も変わってくる。達成されるべき成果が違えば、必要な仕事の内容、必要な情報・知識なども変わってしまう。例えば「売上を上げる」と言っても、「顧客単価を上げて売り上げを上げる」方法と、「顧客維持率を上げて売り上げを上げる」方法では、おのずとやり方から必要な情報まで変わってしまう。さらに、合否の判断も変わってくる。
そのため、知識労働においては達成すべき成果に応じて、仕事の質を測る「モノ」をつくり、成果を定義しなければならない。成果を定義することで、仕事の質を判断できるようになるので、まずは「達成すべき成果を決める」ことが重要なのだ。
「初めて入社したコンサルティング会社では、上司の審査に合格しなければ、資料を社外に提出できないというルールがありました。しかし、その審査の基準は曖昧で、上司の機嫌によるところが大きかったのです。そこで私がリーダーになった際、客先に提出する資料に対し、100のチェック項目を設定しました。そして、その70項目を満たしていれば客先に提出できると決めたのです。そうすることで、部下たちも事前に自身でチェックしてから書類を審査に出してくるようになり、資料のクオリティが組織全体で向上しました。何によって仕事の質を測るか、これを明確にするだけで、組織全体、部下の能力は自然と上がっていくものだと実感しました。部下が自分の仕事の良し悪しを測るための基準を明確にしてあげると、部下の能力も向上していくはずです」(山下氏)
「知識労働者にとって必要なものは管理ではなく自立性である。知的な能力をもって貢献しようとする者には、大幅な裁量権を与えなければならない」
ピーター・ドラッカー
「主体性を発揮させる」とは、部下が上司からの指示命令によって動いているのではなく、「自分の仕事の最終責任者は自分なんだ」と考えながら仕事ができている状態のことだ。上司は指示命令をするのではなく、部下の自立性を引き出すことが大切である。部下に、失敗しても大惨事にならない程度の裁量権を与え、その範囲内で自立・自発的に仕事を進めてもらうことが、上司にとって大切な仕事と言える。
知識労働においては、たとえ同じ分野の仕事であっても、一人一人が持っている知識体系が異なっている。同じ業務を担当していたとしても、それぞれに得意分野が異なることもある。上司は、それぞれの部下が持っている知識や強みを最大限に発揮できるようにマネジメントしなければならない。
「ある会社で、こんなことがありました。『あなたがどんな成果を上げるべきか、自分の仕事の提案を出してください。最初から完璧でなくてかまいません。そして、あなたの成果を上げるために、あなたの上司は何をすべきかについても提案をしてください』と、部下に提案書を出させたのです。するとほとんどの部下が、予想を上回る高い成果を自分に課してきました。そしてその2年後、大半がそれを上回る成果をあげました。この上司は自分の仕事を部下に実際に考えてもらうことによって、部下の主体性を促しました。どんな成果を上げるべきかを自分で考え、自分で仕事を組み立てていく。このリーダーは、部下が主体性を発揮するためにできることをした、ということです。この上司は成功しましたが、これが唯一の正解ということではありません。あなたの職場にあった、あなたの部下の主体性を発揮させる方法を考えてみてください」(山下氏)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授