以上がサービスデザイン等の上流の話だが、同社はプロダクトデザインについても引き続き大きなこだわりを持っている。
特にATMに関しては、1回の利用時間が数十秒と非常に短いという特徴がある。そのため、利用者像を明確に定めたうえで、その利用者にとって快適な体験となるようUI/UXの改修を重ねている。「差別化すべき競合を(他社ATMではなく)ネットバンキングと捉え」(相原氏)、スマートフォンでの操作やオンライン取引に不安があるユーザーを意識したシンプルなデザインを心掛けている。
一方、スマートフォンアプリ「Myセブン銀行」は、300万超のダウンロード数を誇る汎用アプリだ。「すぐに使える 迷わず使える あなたの日常にいるアプリ」をコンセプトに年間15、16回の機能改善を実施し、アプリストアでの高評価を維持している。デザインの一貫性を保つために作成したデザインシステムは外部にも公開し、作り手の想いやナレッジを広く共有している。
相原氏は講演の最後に、チーム力向上のポイントについても言及した。
アジャイルな状態であるためには、変革に対して各メンバーが前向きに取り組んでいく文化を作る必要がある。そうした文化づくりに向けて相原氏が活用したのが、日本CTO協会の「DXクライテリア」だ。
「このチェックシートは、『なんで変えるんですか』と発言する組織を『なんで変えないんですか』という状態に変えるためのドキュメント。非常に多くのチェック項目があるが、私たちは『チームづくり』というパートを重点的に活用している。当初は、27点で偏差値39だったが、直近では37.5点、偏差値51まで改善している。ミッション/ビジョンの明確化、カジュアルコミュニケーションの創出、オンボーディング資料整備、相互称賛文化など、基本的なことしかやっていないが、一度うまく回りはじめると、変革の提案がどんどん出てくるようになった」(相原氏)
相原氏が講演を通じて伝えていたのは、ITを推進する組織のゴールが、システム刷新ではなく、ビジネスの成功に向けた最適な環境を作る点にあること。そのために、IT部門とビジネス部門が一体となって、前例のないものにも取り組み、小さく早く失敗して、学びを次に生かす文化を根付かせている。
原動力となるのは、セブン‐イレブンのDNAに刻み込まれた「ユーザー中心の価値創出」。数年後の社会を変える源泉にもなっている。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授