深瀬氏は、「AIによるデータ利活用は、始まったばかりで手探りの部分もありますが、何が正解かは、まだ見極められていないのが実情です。ただし経営トップがAIにコミットしてくれているので、さまざまな取り組みに積極的にチャレンジできるのがDeNAの強みです。その一環として、各事業で行っている同じような業務をひとつのAIプラットフォームに統合することで、さらなる効率化を目指すとともに、そのための組織改革も進めています」と話している。
データ基盤部の組織改革では、ゲームエンタメ、ライブコミュニティ、ヘルスケア・メディカル、スポーツとバックオフィスという事業分野ごとに4つのグループがある「ストリームアラインドチーム」とプラットフォームグループによる「イネイブリング・プラットフォームチーム」で構成される「職能横断型組織」へとシフトを図っている。データ基盤部の中に全社横断でデータ基盤やAI/機械学習基盤の開発、および運用を行うチームを置き、事業ドメインごとの専門のチームも組んでいる。
深瀬氏は、「一般的な企業では、事業部ごとにデータマネジメント部門があると思いますが、事業部ごとデータマネジメント部門を作ると事業部間に壁ができてしまうことが課題でした。データ基盤部の中に事業支援部門が横断的に組み込まれたこの組織構造は、他社ではあまり見ない特徴と言っていいと思います」と話す。
さらに職能横断型組織へとシフトしたことで、ソフトウェアエンジニア、データエンジニア、MLエンジニアがお互いの仕事の状況を把握できるようになり、例えばMLエンジニアがデータエンジニアの仕事を手伝うことで、チームのパフォーマンスが向上するほか、仕事の質の向上にもつながっている。
「これまでは、スポーツやゲームなど、事業間に壁があったので、これを解決するためにデータ基盤部内をマトリックスの組織構造にし、バーチャルコミュニティも実現しています。これを“ギルド型活動”と呼んでいますが、データエンジニアやMLエンジニアのメリットを生かしながら知識の共有が実現できるだけでなく、案件や開発を通じて得た知見を横展開していくこともできます」(深瀬氏)。
ギルド型活動では、同じ専門性を持ったメンバーが定期的に集まり、ロールごとに任命された「Division TechLead」を中心に新しい技術やナレッジの共有に努めている。Division TechLeadの任期は、原則1年として流動性を維持し、メンバーの成長機会の提供にもつなげているという。
「現状、ロールに固執せず、データエンジニアでもアナリティクス的なロールもあれば、データガバナンスのロールに関わることもあります。データエンジニアリングにチャレンジしたいというメンバーの育成も含めたプランニングを行っています」(深瀬氏)
今後AIオールインの取り組みに関しては、AI専門の組織と並走しつつ、データ基盤部としてはデータガバナンス推進とプラットフォーム構築にも注力する計画だ。生成AIの分野では、社内外のデータを活用して業務改善を進めていくが、生成AIは、誰が、どのデータにアクセスし、どのように活用しているかを把握しにくくなることから、データがどのように扱われているかを追跡するための仕組みも必要になる。
「安心・安全なAI活用を実現することが今後の取り組みになります。データは資産なので、まずは社内のデータガバナンスを確立することが重要になります。縁の下の力持ち的な仕事ですが、これがないと事業が破綻するリスクが高くなります。そこで、もし情報漏えいが発生しても、データの流れを一元的に追跡できる仕組みを構築し、DeNA全体のガバナンスをより一層向上させていきます。AI活用の最大のポイントは、例えば従業員の誰もが使えるようにする民主化(攻めの観点)と権限管理などのセキュリティ(守りの観点)の両立ですが、そのためにはメンバー全員のリテラシー教育も必要になります」(深瀬氏)。
Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在はITmedia エグゼクティブのプロデューサーを務める。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授