――浮いた予算でAIへの投資を進める際、CIOやCFOはどのような点に気を付けるべきですか。
ラビン氏: CIOやCFOは「とにかくAIを活用しろ」とプレッシャーを受けていますが、彼らの多くは「AIがいかにしてコストを発生させるか」というメカニズムを理解していません。
OpenAIやAnthropicなどのAIモデルが意思決定を行うたび、あるいは処理を行うたびに「トークン」が消費され、従量課金でコストが発生します。この「トークンにはお金がかかる」という基本概念を理解しないまま、はやりに乗って社内のあらゆるシステムや業務プロセスに無自覚にAIエージェントをばらまいてしまうとどうなるか。経済的な合理性がないままコストが膨張し、後になってクラウドの莫大な請求書を見て、経営陣は青ざめることになります。
――では、コストを抑えつつROIを最大化するには、どうアプローチすべきでしょうか。
ラビン氏: 重要なのは、「AIはあくまでイノベーションの一部に過ぎない」と認識することです。
業務プロセスの合理化や自動化の多くは、高価なAIなど使わなくても、従来の自動化ツールをはじめ既存の技術で十分に実現可能です。まずは徹底的にプロセスをスリム化し、完了できるタスクは終わらせる。そのうえで、「ここでAIの判断が入れば劇的に価値が高まる」という特定のトランザクションに的を絞ってAIを適用するのです。これが、トークンコストを抑えつつ価値を引き出すための正しいアプローチです。
――AIエージェントが本格的に基幹システムに入ると、ガバナンスが大きな課題になりそうです。
ラビン氏: まさにそこが次の重要テーマです。現在、AIの導入はまだ“よちよち歩きの赤ちゃん段階”にあります。プロのエンジニアだけでなく、業務部門の誰もがAIエージェントを作れる時代になりました。しかし、適切なセキュリティテストやコントロールを行わずに、それらを基幹システムに接続してしまう企業が後を絶ちません。
これは例えるなら、大勢の子どもたちを、監視する大人が一人もいないオフィスの中に放り込むようなものです。数千、数万ものAIエージェントがシステム内で動くとき、それが本当に正しい処理をしているのか? 悪意のある偽エージェントが紛れ込んで資金を抜き取っていないか? それを誰がどう監視するのでしょうか。
――その課題に対し、リミニストリートはどのような解決策を提供するのですか。
ラビン氏: 我々は「AI Agent Ops」という仕組みを提供します。これはAIエージェントを設計・構築し、インターオペラビリティやセキュリティ基準を満たしているかを厳格にテストする“ファクトリー”のようなものです。テストに合格した安全なエージェントだけが、本番環境へのデプロイを許可されます。
――AIエージェントが普及した先、エンタープライズのシステムアーキテクチャ、とりわけデータの持ち方やアプリケーションの在り方は今後どう変化していくと予測していますか。
ラビン氏: まず、アーキテクチャの変化を牽引するのは、ソフトウェアのライセンスモデルの移行です。ベンダーは従来のユーザー単位の課金から、トランザクションやトークン消費に基づく従量課金モデルへと移行しています。また、顧客のデータを自社のプラットフォーム内に囲い込み、データが別の場所に移動するたびに課金しようとしています。
このコスト構造の変化に対抗するため、企業側はTCO(Total Cost of Ownership)を下げるための新しいアーキテクチャを模索し始めています。数年前、巨大なERPは分解可能なコンポーザブルERPへと向かいました。そして今、それはさらに細分化され、APIやマイクロサービスベースへと移行しています。
――データはどこに置かれるべきでしょうか。
ラビン氏: これまでのように、すべての業務データを一度巨大なERPに格納し、そこから他システムへフィードするという中央集権的な構造は終わりを迎えます。AIは既存のデータソースに直接アクセスすることもできますし、SnowflakeやDatabricksのようなデータレイヤーからコンテキストを引き出すことも可能です。
私個人の見解としては、企業は特定のベンダーにデータをロックインされることを避け、PostgreSQLなどのオープンソースをベースにしたデータハブを構築すべきだと考えています。顧客もベンダーもそこにデータを入れ、ストレージ自体に対する余計なコストを払わない構造を目指すべきです。
――究極的には、データを入力するためのERP画面や、業務アプリケーションとしてのSaaSすら不要になるということですか。
ラビン氏: そうなると考えています。現行のような、人がデータを入力するためのインタフェースは不要になります。
最終的には、企業のあらゆるビジネスプロセスがエージェンティックAIの中にレプリケートされるようになるでしょう。データの基盤と、フロントで自律的に動くAIエージェントさえあればビジネスは回ります。そうなれば、その下敷きとなっている高価な業務ソフトウェアパッケージ自体が、最終的には必要なくなる日が来ます。
ただし、正直に言えば、そこに至るまでには少なくとも6年はかかるでしょう。お客さまに「最終的にどうなるのか」と聞かれても、私たちにも正確な姿は分かりません。分かっているのは、変わるということだけ。私たちには、その変化に柔軟に対応する能力がある。それは確かです。
――最後に、日本市場へのメッセージをお願いします。
ラビン氏: 日本市場は我々にとって米国に次ぐ世界第2位の市場であり、ビジネスは非常に成功しています。日本のビジネスリーダーは「いかにして既存の投資から最大の価値を引き出すか」という極めてプラグマティックな視点を持っており、これが我々のビジョンと深く共鳴しているからです。
生産年齢人口の減少が進む日本において、組織を運営するためのリソースをいかに減らしていくかは死活問題です。我々はシステムのTCOを徹底的に削減し、AIエージェントやプロセスの自動化によって、日本企業が直面する労働力不足の解決と真のイノベーションの実現を支援していきます。
(聞き手:星原康一)
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授