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» 2010年04月19日 11時45分 公開

変革期をリードするIT経営者:【第2回】 ビジネスイノベーションをリードするCIOの役割と主要課題 (2/2)

[加藤陽一(日本IBM),ITmedia]
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地球環境保全問題のような新たな要因の追加への対応

 日本政府が打ち出した温暖化ガス排出量を2020年までに1990年比で25%削減するという目標設定により、企業の環境対策も、抜本的なものが求められるようになりました。CO2排出量削減や、廃棄ロスの低減など、環境負荷軽減への対応には、従来の延長上の改善努力を超えた抜本的なプロセスの見直しが急務となっています。

 これまでもCIOはサプライチェーンプロセスの刷新により、リードタイム短縮や在庫適正化、オペレーションコスト低減に取り組んできましたが、難しいのは環境対応とリードタイムやコストとのトレードオフが発生することです。例えば、これまで顧客の需要にきめ細かく応えるために実施してきた、多頻度小口輸送は、少頻度大量輸送と比べて明らかに環境負荷が高まります。だからといって、顧客ニーズを犠牲にして少頻度・大量輸送に戻せば良いという単純な話ではないため、従来のKPI(重要業績評価指標)に環境負荷を加えて、サプライチェーンプロセスを再設計する必要がでてきます。CIOは業務プロセスの再設計をリードするとともに、KPIを可視化するしくみづくりにも責任を持ちます。

 環境対応については、省エネルギーやリサイクルなど企業ごとの取り組みだけでなく、スマートグリッドによる電力消費の最適化など、企業の枠を超えて業界あるいは国家レベルの取り組みとの連携も必要です。これらに備えるため、全社でのエネルギー使用量の可視化や環境負荷の少ない仕組みを構築することなどでCIOが果たす役割は非常に大きいと言えます。

グローバルマネーの増大、マルチプル経済による価格変動性の増大への対応

 1990年代にメキシコや東南アジアなど国または地域単位で発生した金融危機後、世界各国の為替・資本取引の自由化が進み、2003年から2007年まで続いた世界的な金融バブルを経て2008年のリーマンショックで世界全体が金融危機に見舞われ、グローバルマネーの増大によるインパクトの大きさを経験しました。

 この間、世界中の余剰資金が、原油や鉄鉱石、レアメタルなど資源投資に向かい、急激な資源高や為替の乱高下などが経済に大きなインパクトをもたらしました。その中で、従来では考えられなかったスピードで成長する企業が続々と現れています。特に中国、インド、台湾、韓国などの企業がITや電機業界で欧米や日本のトップ企業に伍して上位に躍り出るケースが続出しています。

 これらは従来の業界内の序列や発展段階を無視した世界規模の合併や吸収によって実現しており、従来の漸進的、加算的成長と比較して乗数的成長をとげることから、マルチプル経済(注2)とも呼ばれています。

 この経済環境の下では、短期間のうちに資材調達価格が倍増したり、商品の市場価格が半分になったりといった現象が発生し、継続的改善を得意としてきた多くの日本企業のコスト削減努力だけでは、利益の確保すら困難になってきました。

 このような環境においては、特に売上高減の際に素早くコストを下げて、損益分岐点を下げる必要がありますが、固定費の比率が高く、思うようにコストを下げられないため、思い切った資産売却を迫られるケースも増えています。この時点でCIOが対応できることはIT投資の凍結や既存IT運用経費の削減など、限られています。しかし、今後のビジネスモデル変革においては、経営企画担当役員などと連携して、事業・機能再編、コア機能・ノンコア機能の識別、アウトソースの活用など全社を俯瞰したビジネスとITの最適化のために、その手腕の発揮を期待されます。

 下図(図2)は、新たな経営環境に対応した事業・機能再編を実施している先進的企業における取組のイメージですが、CIOがCEOの参謀として、ビジネスモデル変革を成功に導いています。

図2.ビジネスモデルの変革

 ここまで、新たな経営環境におけるCIOの役割と課題について述べてきましたが、描いたビジネスモデルを実現するためには、同時にその企業の人材の能力を高めていく必要があり、それが競争優位の源泉となります。次回は人材の能力を高め、組織を活性化させるCIOの取り組みについて先行的な企業の事例も踏まえながら、ご紹介します。

注1:「世界のCIOに聞く- Global Chief Information Officer Studyからの洞察」2009年10月IBM Institute for Business Value著, IBM Corporation発行。IBM Global CIO Study 2009のWebサイトからもダウンロード可能

注2:マルチプル経済 大前研一氏が提唱した概念で「数式上の仮説に基づいて、株価収益率(PER)、ヘッジング、デリバティブなどのテクニックを使って資金を調達し、世界市場を動かしていく経済」と定義している

著者プロフィール

加藤陽一(かとう よういち)

日本アイ・ビー・エム(株)グローバルビジネスサービス事業 ビジネスイノベーションサービス パートナー

1984年3月、電気通信大学電気通信学部情報数理工学科卒、同年4月日本IBM入社。金融機関担当営業部門において顧客担当システム・エンジニアとして顧客企業の情報システム企画、構築、運用の技術支援を担当。1995年に日本IBMのコンサルティング サービス部門に異動し、金融機関、製造業、流通業、公益企業の事業戦略、業務改革、IT戦略、IT構造改革のコンサルティング業務に従事。2002年からIBMビジネスコンサルティングサービス 戦略グループ・ITトランスフォーメンションコンサルティングのリーダー。2007年1月、同社戦略グループ IT戦略コンサルティング担当パートナーに就任。現在に至る。



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