失敗からの脱却――日本の宇宙開発はなぜ成功し続けるのかシステムデザイン・マネジメントのススメ(1/3 ページ)

ロケットの相次ぐ打ち上げ失敗など、2000年前後の日本の宇宙開発は実に厳しい状況が続いていました。ところが一転、ここ5年間は連戦連勝の成果を収めています。その背景には一体何が隠されているのでしょうか。

» 2010年01月27日 08時15分 公開
[神武直彦(慶應義塾大学),ITmedia]

好調な日本の宇宙開発

 最近、日本の宇宙開発が好調です。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、昨年、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の建設を完成させました。若田光一宇宙飛行士に続いて、現在、野口聡一宇宙飛行士がISSに長期滞在しています。また、H-IIAロケットやその能力増強型ロケットであるH-IIB試験機1号機の打ち上げも連続して成功し、それらによって打ち上げられた月周回衛星「かぐや」や温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」、宇宙ステーション補給機(HTV)技術実証機も成果を上げ、世界各国から高い評価を受けています。

 例えば、いぶきは地球温暖化の要因となる二酸化炭素やメタンガスを観測することがミッションですが、アメリカ航空宇宙局(NASA)が炭素観測衛星「OCO(Orbiting Carbon Observatory)」の打ち上げに失敗してしまった現在、温室効果ガスを観測できる世界で唯一の人工衛星であり、地球温暖化対策への貢献を国内外から期待されています。

ISSに結合するHTV技術実証機(提供:NASA/JAXA) ISSに結合するHTV技術実証機(提供:NASA/JAXA)

失敗続きの5年間

 これらの宇宙機システムは、人類が創り出しているシステムの中で最も大規模かつ複雑なシステムのひとつであり、このように連戦連勝の成果を残すことは並大抵のことではありません。実際、過去10年間の日本の宇宙開発を振り返ると、成功続きの5年間の前には苦悩に満ちた失敗続きの5年間がありました。

 まず、1999年11月15日には、H-IIロケット8号機が第1段エンジンの突然の停止によって飛行すべき軌道をはずれ、失敗しました。年が明けて2000年2月10日には、M-Vロケット4号機が第1段ノズル破壊による速度不足によって失敗しました。その後、さまざまな原因究明や対策を行い、H-IIロケットについては後継機のH-IIAロケット試験機1号機を2001年8月29日、M-Vロケットについては2003年5月9日に5号機を打ち上げ、共に成功しました。

 ところが、2003年10月25日には環境観測技術衛星「みどり2」が打ち上げ後約10カ月で運用異常となり機能全損によって失敗、2003年11月29日にはH-IIAロケット6号機が固体ロケット分離の不具合によって予想速度が得られずに失敗、2003年12月9日には火星探査機「のぞみ」が火星軌道投入に失敗しました。

 しかし、2005年2月26日に打ち上げられたH-IIAロケット7号機以降、日本の宇宙ミッションは連続成功に転じ、現在に至るまで10機以上のロケットの打ち上げが成功し、それらのロケットやスペースシャトルで打ち上げられた人工衛星やISSなどもほぼ完璧に成功しています。

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