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» 2011年04月27日 08時30分 UPDATE

小松裕の「スポーツドクター奮闘記」:東日本大震災、スポーツ人としてすべきこと

未曾有の震災は今なお被災地の方々を苦しめています。今、スポーツにできることは何か。多くのスポーツ選手がすぐさま行動を起こしました。われわれスポーツドクターも現地に向かいました。

[小松裕(国立スポーツ科学センター),ITmedia]

 3月11日に起きた東日本大震災、巨大な津波が町を飲みこみました。あまりにも大きな被害の現状が明らかになるにつれ、多くの日本人が、「自分に何かできないのか」と考えました。スポーツ界からも、さまざまな形で支援の声が広がり、それぞれの立場ですぐに行動を起こしました。

 スポーツ選手たちは一流であればあるほど、日ごろから「スポーツに何ができるか」を考えています。これはまさしくオリンピック精神、スポーツによる人間形成や人類への貢献です。一生懸命練習することにより、自分を磨くことになるだけでなく、人のためになる、ならなければいけないという気持ちをスポーツ選手たちは持っています。誤解しないでいただきたいのですが、これは決して上から目線のおごった気持ちではありません。

 同時に、スポーツを続けられることや応援してくれる多くの人たちに対しての感謝の気持ちを持って練習に励んでいます。「自分のためだけではなく人のためにスポーツに打ち込む、皆のおかげでスポーツができている」という気持ちがあるからこそ、あれだけ激しいトレーニングに打ち込めるのです。

 国難ともいうべき今回の大震災が起きたとき、多くのスポーツ選手たちはすぐに行動に移しました。支援物資を送るために活動した選手、募金活動に積極的に参加した選手、義援金を送った選手など、自分にできることをすぐに実行しました。そして、これからも被災地が少しでも元気になるために懸命にプレーしてくれると思います。

現地での支援活動を展開するJOCチーム

 われわれも、スポーツ人の一員として、自分が何をすべきか考えました。悲惨な状況が明らかになりつつあった3月13日の朝、東芝病院の増島篤先生から電話がありました。

「スポーツにかかわる医療人として、日本オリンピック委員会(JOC)の医学サポート部会としてなにかできないかな。スポーツで培ったわれわれの経験を力にしようよ」

「ぜひやりましょう。アスリートたちとも共同して行動を起こしましょう」

 さっそく、JOCの事務方も交えて具体的な作戦を立て始めました。当初はなかなか医療支援隊の受け入れ先が見つからなかったのですが、岩手県大船渡市の日蓮宗本増寺を拠点に支援活動を行うことになり、JOC医療支援チーム第一陣が3月28日から活動を開始しました。本増寺の住職の息子はスポーツマンで、さらにスポーツ医学界の御大である筑波大学の河野一郎先生や早稲田大学の赤間高雄先生の教え子ということで、さっそくスポーツのつながりが生きました。

 スタッフはドクターとアスレチックトレーナーがそれぞれ2〜3人、事務スタッフが2人という体制でチームを組んで、4日ごとに交替で支援を行います。毎夕、全国各地から集まった医療チームと打ち合わせを行い、情報を交換し、それぞれが分担し担当の各避難所を中心に医療活動を行っています。

スポーツで身体と心を「復興」

 中でも特に重要なのがアスレチックトレーナーによる活動です。けがなどに対する理学療法だけでなく、避難所で一緒に体操を指導したり、子どもたちとボールを使ってスポーツをしたりなど、体を動かすことのお手伝いをしています。

トレーナーによる治療の様子 トレーナーによる治療の様子

 長期にわたる避難生活は体にさまざまな悪影響を与えます。狭い場所での生活や運動不足は、血管に血の固まり(血栓)ができやすくなります。それによって肺の血管が詰まると激しい胸の痛みや呼吸困難が起き、命を落とすこともあります。これが肺塞栓症、いわゆる「エコノミークラス症候群」です。この予防のためにスポーツ活動はとても重要です。

 また、家族や友人を失った悲しみ、「自分だけどうして生き残ってしまったのだろう」という葛藤、精神的な痛みはそう簡単には消えず、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を引き起こします。このような避難生活における精神状態、特に子どもたちに対してスポーツは大きな治療的意義を持っています。

 「被災地でスポーツなんか」と思うかもしれませんが、避難生活においてスポーツ活動が身体や心に与える健康効果の重要性は、過去の阪神淡路大震災や新潟県中越地震などでも実証されています。今回の震災でも、長期の避難生活が予想されることから、今後ますます大事になってくることでしょう。被災地にはわれわれ以外にもスポーツ活動にかかわっている指導者、選手、トレーナー、教員の方々がたくさんいます。彼らとも連携をとりながら、避難所でのスポーツ活動のリーダーシップをとっていきたいと思っています。

 少しでも早く被災された方々の身体と心が「復興」することを願ってやみません。そのために、スポーツ人としてできる限りのことをしていきたいです。


著者プロフィール

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小松裕(こまつ ゆたか)

国立スポーツ科学センター医学研究部 副主任研究員、医学博士

1961年長野県生まれ。1986年に信州大学医学部卒業後、日本赤十字社医療センター内科研修医、東京大学第二内科医員、東京大学消化器内科 文部科学教官助手などを経て、2005年から現職。専門分野はスポーツ医学、アンチ・ドーピング、スポーツ行政。



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