スポーツ選手とTwitter小松裕のスポーツドクター奮闘記

ブログやTwitterを駆使して発信を続けるスポーツ選手が増えています。そこには、スポーツの楽しさやスポーツの力を伝えることも自分たちの役割であるという自覚があります。

» 2011年06月13日 07時00分 公開
[小松裕(国立スポーツ科学センター),ITmedia]

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 TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアが話題です。東日本大震災では安否確認だけでなく義損の呼び掛けなどでも大きな役割を果たしました。もうだいぶ前に感じてしまいますが、エジプトの政変などでもソーシャルメディアの存在が大きかったと報道されました。

 私自身、スポーツの魅力や健康に関することを発信しようと約半年前からブログを書き始めましたが、Twitterは登録したままほぼ放置していました。はやりの「つぶやき」にどんな意味があるのかがよく分かりませんでした。

 しかし、今年2月から3月にかけて腰の手術のために3週間ほど入院しました。時間の余裕があったこともあり、Twitterを本腰入れて始めてみました。すると、よく知っているオリンピック選手やプロ野球選手たちがたくさんつぶやいているのを知りました。彼らのつぶやきにはさまざまな意味や気持ちが込められていて、スポーツ選手としての自覚や責任を伴ったものであることがよく分かりました。

 震災に対してスポーツに何ができるかを問い掛ける選手、多くの人たちに会場に足を運んでほしいと大会の宣伝する選手、ファンのためにスポーツを少しでも身近なものにしようとメッセージに返事をする選手、自分の近況をつぶさに報告する選手など、つぶやく内容はさまざまですが、「多くの人たちにスポーツの素晴らしさを知ってほしい」という思いは共通しています。

 選手たちの健康をサポートする私にとっても、彼らのつぶやきは貴重な情報源になります。今どこに遠征中なのか、身体も心も元気でやっているのかなどを把握できますし、ばったり出会ったときのネタにもなります。

言葉に重い責任が伴うことは変わらない

 Twitterなどを通じて、今や選手たちが直接世の中に語りかけられる機会が増えました。ひと昔前であれば、選手たちからの発信は取材の場くらいしかなかったでしょう。時々テレビ番組に呼ばれても、必ずしも自分の思いをすべて発信できるとは限りません。短時間のインタビューでは言いたいことが言えなくて歯がゆい思いをした選手もたくさんいたでしょう。試合後の選手たちの短い一言が、どれだけ世の中に影響があるか分かっている選手でも、瞬時に思いをうまく伝えられるとは限らないのです。

 選手の短い一言といえば、私が初めてチームドクターとして帯同した15年前のアトランタオリンピックを思い出します。有森裕子さんの「初めて自分で自分をほめたいと思った」、そして千葉すずさんの「楽しむつもりで泳ぎました」です。どれもオリンピック期間中での言葉ですから、選手村の中にいた私はそれらが日本でどのように報道されたかを帰国後に知りました。

 はじめてのオリンピック帯同や選手村での生活において、「選手たちが日の丸や国民の期待を背負い、4年に1度の舞台で戦うのはこんなに大変なことなのか」と肌で感じていましたが、日本選手団が帰国する際に、有森さんと話をしたところ、「自分のために、そして楽しんで走らなきゃ」とさわやかな顔で彼女は言いました。「オリンピックを楽しむ」という気持ちが2大会連続メダル獲得のための大きな力になったのです。

 力を出し切るには、試合を楽しむような心の余裕が必要です。プレッシャーに押しつぶされて普段の力を発揮できなかった選手たちをたくさん見てきました。ですから、千葉さんは「楽しむくらいの心の余裕をもって試合に臨みたい」というような気持ちで発言したのだと思います。しかし、周囲にはそのようには伝わりませんでした。言葉というのは難しいなと感じました。

 いくらブログやTwitterなどで自由にメッセージを発信できるようになったからといっても、選手たちの言葉には重い責任が伴います。スポーツ選手の発信力がさらに試される時代になったといえるでしょう。

 スポーツの素晴らしさ、そして選手たちの真の姿や思いを多くの人たちに知ってもらうために、これからも選手たちの発信力に期待したいと思います。


著者プロフィール

小松裕(こまつ ゆたか)

国立スポーツ科学センター医学研究部 副主任研究員、医学博士

1961年長野県生まれ。1986年に信州大学医学部卒業後、日本赤十字社医療センター内科研修医、東京大学第二内科医員、東京大学消化器内科 文部科学教官助手などを経て、2005年から現職。専門分野はスポーツ医学、アンチ・ドーピング、スポーツ行政。



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