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» 2011年11月28日 08時00分 UPDATE

小松裕の「スポーツドクター奮闘記」:信念を貫く内村航平の美しい体操 (1/2)

体操のルール改正によって、難易度の高い演技に挑む選手が増えています。その結果、けがのリスクも高まっています。スポーツ医学の視点から、今回の世界選手権を振り返ってみましょう。

[小松裕(国立スポーツ科学センター),ITmedia]

世界を駆け回るドクター小松の連載「スポーツドクター奮闘記」、バックナンバーはこちら



 先月、体操の世界選手権が東京で開催されました。私もチームドクターとして帯同したこの選手権では、日本人選手の奮闘が光りました。男子は数多くのメダルを獲得しましたし、男女ともに来年のロンドンオリンピックの団体出場権を得ることができました。

 何といっても、内村航平選手の活躍が目立ちました。個人総合では断トツの強さで3連覇を果たし、種目別でも床で金メダル、鉄棒で銅メダルを獲得しました。

 個人総合の競技において、すぐ近くにいた私は、内村選手が最終種目の鉄棒で着地をピタリと止め、個人総合3連覇が決まった瞬間、鳥肌が立ちました。内村航平は身体からオーラーのようなものを発していましたし、会場の誰もがそれを感じていました。演技終了直後、会場全体に自然とわき上がるスタンディングオベーション――誰もが強くて美しい体操に感動し、スポーツの力を感じた瞬間でした。

 内村選手は最終日、種目別決勝の鉄棒の最終演技者として、美しい完璧な演技で大会を締めくくりました。誰もが「金メダル」と感じた演技でしたが、結果は銅メダル。これは現在の採点方法では、美しい体操をするよりも、難度の高い技をたくさん入れた方が有利なのです。

 このことは、試合中や練習中のけが、スポーツ医学ととても関係があります。詳しく解説しましょう。

曖昧な採点基準

 体操競技の採点は「Dスコア」と「Eスコア」の合計点で計算されます。Dスコアというのは、技の難易度や組み合わせによって決定し、難しい技をやればやるほど高くなる仕組みです。それに対しEスコアというのは、技の出来栄えを評価するものです。10点満点で欠点があるとそこから減点されていきます。

 すなわち、Dスコアは誰が採点しても変わりがありませんが、Eスコアは採点する審判によって大きなばらつきがあります。Eスコアは減点法なので、美しい体操をしたからといって加点するわけにいきません。美しくない体操をどれだけ減点するかの基準がとても曖昧なのです。

 例えば、種目別鉄棒で優勝した中国のゾウ・カイ選手と内村選手について、予選および決勝の鉄棒の得点を比べてみましょう。

<予選>

Dスコア Eスコア 合計
ゾウ・カイ 7.300 7.866 15.166
内村航平 6.700 8.833 15.533

<種目別決勝>

Dスコア Eスコア 合計
ゾウ・カイ 7.700 8.741 16.441
内村航平 7.300 9.033 16.333

 これをご覧になってすぐにお気付きの方も多いと思います。決勝では2人とも予選と比べてDスコアを高めてきました。これは難しい技をたくさん出したということです。

 予選も決勝も2人は大きなミスなく演技を終えました。ところが、予選ではEスコアの開きが1点近くあったのに、決勝でその差が0.3点しかありません。予選では美しい体操が評価され、美しくない体操と1点分の差があると判定されたのに、決勝ではその差が0.3しかないと判定されたのです。

 予選と決勝ではEスコアを判定する審判員がすべて入れ替わりますが、Eスコアの採点の基準、すなわち目に見える失敗だけでなく「美しくない体操をどう減点するか」の基準がとても曖昧であるためこのようなことが起こってしまうのです。最近の体操の採点は今回のような採点になる傾向があります。

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