一方で、ハードウェアやソフトウェアなどコンポーネントを中心とするITベンダーの世界においても、サービス化は重要なキーワードでありトレンドである。SaaS(Software as a Service)に始まり、シンクライアント、モバイル連携、アーキテクチャ仮想化、データセンター、クラウドコンピューティングなどさまざまなキーワードが入り乱れて、ITサービスの世界に大きな希望と一抹の混乱を招いている。
このあたりの状況については、もはや言うに及ばずの感もあるのでここでは触れないが、先のITサービスのトレンドとあわせて気になるのは、やはり日本市場のこれからの展開である。これまで述べてきたトレンドについて、欧米と日本で市場規模や利用者の理解がどの程度異なるのかについては、さまざまな見方がある。新しいトレンドをビジョナリーに明示しているのは、ほとんどが米国を中心とする海外のベンダーであることは事実だが、実績面や現場からの評価は、必ずしも十分でないという見方もできる。
こうした状況のなか、ベンダー側の競争構造において日本のITベンダーが、引続き競争力を維持していけるのかについてはもちろん気になるところである。それ以上に、ITユーザである企業や組織がこれからどの様な選択を行ってゆくのかは、ひいては日本の産業競争力そのものに関わってくることにもなりかねず、目が離せないところである。
日本のITサービス市場は、依然として大きな規模であることは間違いないし、その意味で先行きにあまり悲観的になる必要はないだろうが、海外のサービスベンダーから見た日本のITサービス市場はかなりエキゾチックな世界であり、BRICs市場など新興市場と比較して、顧客獲得コストが高い状況が続いてきたことは事実である。
経済環境の変化によって、多くの日本企業は海外市場に成長の活路を見出そうとしている。企業組織の存在形態から地政学的側面が薄れつつあることは、情報システムのソーシングにも大きな影響を与えるわけだが、仮想化やサービス化といったシステムのトレンドは、そうした大局的な視点からも、十分な説得性を持つものである。
“IT does not Matter”と題されたニコラス=カーの論文が発表されて5年が経過した。当時噴出した議論と、今後想定されるITサービスのトレンドの関係は、非常に逆説的な状況にあるのではないだろうか。
なりかわ・やすのり 1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授