ITサービスにおける「規模の経済」が視野に入れて考えるのは極めて自然なことであり、従来からのITサービス事業における営業活動やシステム構築、保守サービスなど、商慣習やビジネスモデルを大きく変えていくであろうことは想像に難くない。
前回Hewlett-Packard(HP)によるElectronic Data Systems(EDS)の買収について取り上げ、ITサービスの市場は、サーバやアプリケーションソフトウェア市場の様に、上位数社で市場の大半を占める構造とはいささか状況が異なるが、HPとEDSが合わさりIBMに匹敵する規模の勢力が出現することで、「規模の経済」の確立に向けた胎動と考えることは十分可能だろうと書いた。
IBMもHPもITサービスに関するさまざまなコンセプトや体系を発表している。とりわけIBMの情報発信量は膨大であり、ソフトウェアコンポーネントから運用に至るまでのさまざまなビジネスレイヤにおいて、数多くのコンセプトが提唱されている。
これらを客観的に一元化してとらえるのはなかなか容易なことではないのだが、中核的な概念を選ぶとすれば、次の3つが重要と考えられる。(1)顧客の業務をソフトウェアコンポーネント化する考え方である"CBM(Component Business Modeling)"、(2)それらをシステムサービスとして設計・実装する手法である"SOA(Service Oriented Architecture)"、(3)そのシステムを元に顧客にコアビジネスへの集中と市場変化への動的な対応力をもたらすITサービス体系としての"BTO(Business Transformation Outsourcing)"。
これらは順に上位の概念に包含される形になっており、その意味では最後のBTOがすべての概念を包含した体系ということになるわけだが、これについては進化の度合いに応じた3つの段階が定義されており、現状はその最初の段階である"BPS(Business Processing Service)"での具体的な製品サービスと実績を積み重ねている状況と考えられる。
IBMは一方で「サービスサイエンス」の研究活動に注力しているが、これについてはさまざまな業種で提供される優れたサービスを、ソフトウェアコンポーネント化する上でのモデルや考え方を、ソフトウェアの側からではなくサービスそのものの業務視点から考えるアプローチととらえることができるだろう。
IBMの考えるITサービスの方向性を見ていると、彼らが提供しようとしているITサービスは、顧客の企業や組織の中にある、ノンコアな機能(サービス)をソフトウェア化したものであり、究極的にはそれらのオペレーションそのものが、ITベンダーの目指す役割ということにつながっている。その意味では、顧客である企業は単に人間の集団としての組織というよりも、さまざまな機能(=サービス)の集合体としてとらえられていることが分かる。
これを少し極端に考えてみると、企業にとってはある組織がなくなってもその機能は存続し得るということになる。つまり、人事部がなくなっても人事サービスは残り、経理部がなくなっても経理サービスは残るというわけである。そのどこまでがソフトウェアサービスとして提供可能であるか、さらにその基本機能の共通化と効率化を進めることができるかがその根本的目標にある。
そしてその先に、ITサービスにおける「規模の経済」が視野に入れて考えるのは極めて自然なことであり、従来からのITサービス事業における営業活動やシステム構築、保守サービスなど、商慣習やビジネスモデルを大きく変えていくであろうことは想像に難くない。
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