情報社会におけるオリンピックを考える新世紀情報社会の春秋(1/2 ページ)

今回の北京五輪の開会式を見ていると、世界経済の主導力が先進国から中国に代表される新興国に移行しつつあることが強く印象づけられた。それにしても、五輪大会におけるIT活用は、もっと活発化させるべきではないだろうか。

» 2008年08月21日 10時34分 公開
[成川泰教(NEC総研),ITmedia]

経済繁栄の象徴に戻った北京オリンピック

 北京オリンピックの模様が連日テレビ中継で放映されている。それほど熱心なスポーツファンというわけでは決してない筆者だが、競技の場面が目に入ると、そこに何か言いようのない期待をしてしまうのか、つい画面に見入ってしまう。オリンピックは毎回規模が拡大し参加国が増えているという。「スポーツで世界を1つに」という理念は素晴らしいし、それが回を重ねるごとに世界中に受け入れられ、定着しているのは事実である。

 いわゆるアマチュアリズムがオリンピック憲章から消えてしまった現在、オリンピックを経済発展と結びつけて考えるのは決して不自然なことではないだろう。歴史的いきさつはともかくとして、優秀な成績を収めた選手に、貨幣の代表的な材料である金銀銅で作られたメダルを授与するという慣習は、すでに勝者に対する経済的な報酬を連想させる。

 前回2004年のアテネ大会では、政治や経済との結びつきが強くなりすぎた前世紀のオリンピックへの反省から、オリンピック本来の基本精神への立ち返りが企図されたと記憶している。しかし、今回の北京五輪の開会式を見ていると、世界経済の主導力が先進国から中国に代表される新興国に移行しつつあることを、ストレートに印象づけられた感は否めない。同時に、経済や文化など国家の繁栄を象徴するイベントとしてのオリンピックは、あっさりと復活してしまったようにも思える。

大会終了後の経済情勢には十分な注意が必要

 だからといって、オリンピックに対するそうした中国の姿勢を非難するのは、あまりフェアなことではないだろう。それは環境問題における炭酸ガスの排出規制に関する議論に際して、中国やインドなどの新興国が、これまでの先進国による排出の歴史に対する自省を踏まえた行動を、まず求めようとするのと似ているように思う。

 世界経済が新興国中心に成長する時代に入ったことは、先進国経済の減速が鮮明となった昨今の経済情勢のなかで日増しに明確になってきている事実だ。BRICsと呼ばれる4カ国を核に、新興国の経済は急成長を遂げており、いまやBRICs経済の世界経済全体の成長に対する寄与は、先進国全体のそれに匹敵するまでになってきている。そしてその実体はもはや先進国での需要に支えられている段階から、国内あるいは新興国間での貿易に伴う需要が主流となる状況 に向かいつつある。これはいわゆる情報産業においても例外ではない。

 一方で、北京での開催が決定してから今日に至るまでの数年間に、中国が国民に対して求めてきた様々な犠牲に対しては、大会終了以降に何らかの形でその代償が求められることになることは十分に予想される。すでに内政問題上のほころびが、地方での散発的なテロ行為となって現れ始めているが、そうした問題に加えて経済的な側面においても、ある種の反動が起こりうることは折り込んでおく必要がある。それらは世界経済全体にとっての波乱要因とならないとも限らないだけに、当面は中国の政治経済情勢には注視が必要だろう。

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