情報社会におけるオリンピックを考える新世紀情報社会の春秋(2/2 ページ)

» 2008年08月21日 10時34分 公開
[成川泰教(NEC総研),ITmedia]
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新世紀のオリンピックに期待されること

 オリンピック精神が今後どの様な方向に進んでいくのかという問題については、まだ北京大会も終わっていないうちから気が早いのかもしれないが、いわゆる先進国(成熟国という表現がふさわしいのかもしれないが)のなかでも現代経済社会の祖先と言っても過言ではない、イギリスのロンドンが次回2012年の開催地となっているのは、非常に興味深いところである。

 昨今の世界経済の構造変化のなかで、一時期の凋落ムードから復活を遂げつつあるイギリスだが、4年後の状況を現状と同一視するのはやや早計であるとしても、北京大会から引継がれる課題に対して、大きなパラダイム転換を提示できうる立場として考えると、なかなか面白い国が開催国に選ばれているように思う。

 筆者の勝手な希望なのだが、これからのオリンピックにおいては、スポーツと政治や経済との関係についてはもちろんのこと、オリンピックという大規模プロジェクトの開催や運営における、財務や労働のあり方、地球環境との共生、そして情報技術の活用といった側面について、透明性と実用性の両面から評価できる新しいシステムが、次々と提示され実験されることを期待したいと思う。

 例えば、環境への対応については、現状では、世界中から選手や観客が空路で開催地に集まってくるというだけで、すでに昨今の熱心な環境保護論者が眉をひそめそうな感もないわけではない。開催に際しての省エネや排出ガスの削減だけでなく、排出権取引を活用した企業や団体などからの寄付やスポンサーシップといったことも考えられ、オリンピックそのものが、地球全体でのある種の削減目標に対するイニシアティブをとることで、大会の存在に新たな意義付けを行うこともできるだろう。

 そして新世紀のオリンピックで最も期待したいのは、様々な意味での情報の活用をさらに深めることだと思う。

情報の共有と技術の活用で実現するルールの公平性

 オリンピックに代表されるスポーツのグローバル化にはいろいろな問題があるが、ゲームを客観的に楽しむ観客の立場から最も気になる問題として、公正な競技ルールとは何かという問題と、その意味からの判定(ジャッジ)の公平性あるいは透明性という問題があると感じている。もちろんそこにはドーピングや収賄のように競技に先立つ時間で行われる様々な不正も含まれてくるだろう。

 今大会でも日本が多くのメダルを獲得した柔道やレスリングにおいて、疑わしいジャッジに対して映像によるリプレイを求める権利が認められるようになるなど、情報技術によって審判を補完する方法にそれなりの進展は見られる。しかしながら、有効技や反則技の判定、あるいは体操やスケートなどでの芸術点を巡る判定など、ルールの複雑化と同時にジャッジの公平性、透明性に対する問題は、必ずしもよい方向に進んでいるようには思えない。

 日本選手のメダル獲得で注目を集めたフェンシングでは、技の成立には電気信号を用いた機械判定が採用されている。競技本来の伝統的側面を重んじる立場からの反対意見は根強いようだが、細い剱先による一種の技を判定する方法としては極めて合理的な手法であるには違いない。

 個人的には、現在であればGoogleやAppleといった企業が、大会のオフィシャルスポンサーとして参加することで、ICTの活用によるこうした問題の改善に始まり、スポーツにおける情報活用という側面から様々な面白いアイデアや展開が生まれることが期待できるのではないかと思う。Googleなどは開催国次第では、今大会あたりのタイミングで何らかの貢献があってもおかしくはなかったのではないだろうか。

 例えば、サッカーなどのチーム競技をベースに、選手個人間や監督、コーチとの無線コミュニケーションなどの情報武装を前提とした新しいゲームを、公開競技に準ずるエキシビジョンの様な形で実施するというのも面白いのではないだろうか。

 ライフルなどの射撃でもレーザー光線を使った電子銃の活用が考えられそうだし、さらには最近のゲーム機を見ていると、単なる指先だけの技にとどまらないものが多く現れており、それらに体育競技としての要素を盛り込んだものから、新しい競技が生まれてきそうな予感もある。そんなものはスポーツ競技ではないと一笑に付すのが伝統というものだろうが。

 古来から伝わる競技の伝統を維持継承してゆくことは重要だが、個人的にはそれはオリンピックに求められる本来の役割ではないと思う。かつてのオリンピックには算術などの種目があったそうだが、世界の国や人々が競技を通じて相互の理解を深め、尊重し合うという本来の目的を考えるに、こうした意味での情報の活用を考えることは、決して無駄なことではないと思うのだが。

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