ITILがエンタープライズ市場で注目されている。しかし、中堅企業ではまだ実装化の準備が整っていない。さまざまな問題を乗り越えて導入に成功した例に見る、その効果とは?
シアトルのキャンプ用品メーカー、カスケード・デザインズのCIO、バリー・パックスマン氏は数年前、配下のチームのソリューション開発やサービスコールへの対応を改善する方法を模索した。そしてたどり着いた結論が、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)だった。それは言ってみれば、CIOの台本である。
しかし研究を進めたパックスマン氏は、配下の11人のスタッフで、ITILの要求する全面的な変更に対応することは不可能だと判断した。「私にとって避けたいことは、情報の過負荷と開発チームの戦意喪失だ」とパックスマン氏。そのため、レギュラーミーティングとヘルプデスクインシデントへの非公式なレスポンスだけに絞ることにした。「ITILは優れたアイデアをたくさん含んでいるが、われわれには実行するための時間や資源がない」(同氏)
アイダホ州コーダレーンの東300マイルにある売上高7億8000万ドルの女性用アパレルメーカー、コールドウォーター・クリークの技術および運用担当部門副社長、マイク・カーパー氏も、同じような問題に直面していた。ヘルプデスクインシデントは数日置かれたまま解決されず、なんのフォローもされず、解決してもスタッフがその功を認められることはなかった。
カーパー氏は数カ月かけてITILの手法を導入し、BMCソフトウェアのサービスマネジメント製品をベースに新システムを立ち上げた。その結果、より強力なヘルプデスクが実現した。「ベストプラクティスに準拠したことで、IT部門の応答性、効率性が改善し、説明責任が果たされるようになった。大げさではなく、以前とはまったく違う雰囲気になった。きっとユーザーも同じように感じているだろう」とカーパー氏は胸を張る。
コールドウォーター・クリークとカスケード・デザインズは、ITIL導入という大きなチャンスと特殊なチャレンジをミッドマーケットで実証した。こうしたベストプラクティスの有効性について、異を唱える声はない。ここ5年間で、ゼネラルモータースやファイザーといった大企業も相次いでITILを導入している。しかしそれらの事例は、必ずしもすべての中堅企業にITILを導入できる資金力があるわけではない、という事実を突きつけるものでもあった。
サービスマネジメントの向上を目指す理論はすばらしい。だが、実践するとなると話は別だ。その理由はいくつかある。まずはじめに、ITILに関連する変更には、少なからぬコストと時間がかかることだ。また今日、市場にはほかにもさまざまなITマネジメント手法が数多く存在する(次頁「その他のフレームワーク」を参照)。
それでもITILの有効性については、多くのコンサルタントが認める。フォレスター・リサーチの顧客サービス担当副社長、チップ・グリードマン氏は、サービスマネジメントのガイドラインへの理解が進めば、中堅企業のITサービスはより効率的になると話す。「中堅企業にとってITILの意義は、日常的なビヘイビアの意識を向上させる点だ」と同氏。標準化によって、「無駄な出費を垂れ流す企業」と「ITを収益源とするために全力を挙げる企業」の間に大きな差が出るだろうとグリードマン氏は言う。
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