環境対策に向けて企業の電力コストやCO2排出にメスが入る中、ベンダー側も“地球に優しい”ツールやサービスを提供したり、グリーンITを積極的に推進するコンソーシアムを立ち上げたりするなどして、新たな戦略を打ち出している。
大手ベンダー各社も、サーバ仮想化ツールや最先端のサーバ冷却サービスを提供するなど、エネルギー効率化のニーズに積極的に対応している。米Hewlett-Packard(HP)は「サーマルゾーンマッピング」と呼ぶサービスを開始した。このサービスは、データセンター内の空気の流れを解析して効率的な空調を実現するもので、データセンターの3次元イメージを作成し、コンピュータルームエアコンディショナー(CRAC)の“有効範囲”を示すことができる。ターゲットとなる顧客は、50台以上のブレードサーバ、あるいは1010キロワットのラックを所有する企業だ。「そうした企業の多くは、導入前に予想もしなかった発熱と冷却コストの問題に悩まされている」と、HPサービスの副社長ブライアン・ブロイリット氏は語る。最も高度なサーマルゾーンマッピングの平均コストは、温度センサーも含めて10万ドルだ。このサービスで得た情報を元に、CIOはCRACとサーバの配置を最適化できる。
一方、サンフランシスコで開催された2007年のLinuxWorldでは、米IBMが、UNIXとx86のワークロードをIBM System pサーバ上で統合するツールを導入した顧客10数社の事例を発表した。フォルクスワーゲンやスペインの電話会社テレフォニカ・モビレスなどが採用したこのツールは、データセンターのエネルギー効率を高めるのに役立つという。
HPとIBMはまた、エネルギーコストを削減し、二酸化炭素の排出量を抑制するため、さらにはエネルギー効率の高い自社製品を広くアピールする狙いも含めて、それぞれ大規模なデータセンター集約化プロジェクトを進めている。HPは87カ所のデータセンターを6カ所に統合する。一方、IBMは3900台のサーバをLinuxが稼働する33台のSystem zメインフレームに統合する計画だ。“Big Green”と名づけられた総額10億ドルに上るプロジェクトの一環として、IBMはコロラド州に最先端のデータセンターを建設する。「われわれは消費電力や二酸化炭素の排出量を増やすことなく、電算処理とデータ容量を2倍にする」と、IBMのIT最適化担当副社長リチャード・レクナー氏は言う。
HPとIBMは、グリーンITへの取り組みを強化するために今年結成された非営利団体「The Green Grid」に参加している。このコンソーシアムは、データセンターのエネルギー効率を計測する標準的な手法やベンチマークの開発を目指す。実際、CPU、電源、サーバ、アプリケーション、建築構造、湿度など、さまざまなパーツのエネルギー消費をチェックするタスクは、きわめて困難な作業だ。ラッカブル・システムズのマーケティング担当副社長で、Green Gridの役員を務めるコレット・ラフォース氏によると、同コンソーシアムでは、データセンターのエネルギー効率を測定するための基準を策定するとともに、グリーン化を達成した個別の技術製品に認定シールを提供することも考えているという。Green Gridには、マイクロソフト、サン・マイクロシステムズ、デル、インテル、AMD、VMwareなども参加している。
「グリーン製品は、従来の製品より価格的には不利だが、すでに幅広い製品が提供されている」と話すのは、バミューダの印刷会社ビスタ・プリント(売上高2億5500万ドル)のCOOウェンディ・セビュラ氏だ。そうした製品にはエネルギー効率に優れた電源装置、電圧安定器などがあり、インテルやAMDが開発した省エネタイプのチップセットも含まれる(電子システムおよび部品ベンダーのイートン・コーポレーションによると、サーバが稼働するために必要な電力の50%以上はCPUによって消費されるという)。新しいタイプのUPSシステムは、従来製品と一般的な利用環境で比較した場合、電力ロスが70%以上も改善されている、とGreen Gridは報告している。
いまから2年前、ビスタ・プリントのデータセンターを管理するプロバイダが、エネルギーコストの上昇を踏まえ、ビスタ・プリントに省エネ化を検討するよう強く促した。そこで同社は、電力消費を75%削減するために仮想サーバの導入を決定するとともに、1年使用した物理サーバを省エネタイプのサーバにリプレースし、屋外に熱気を排出するエアコンを設置した。ビスタ・プリントでは、今後3年間で50万ドルの経費と、昨年だけで数トンの二酸化炭素排出量を削減できたと胸を張っている。
実際、サーバの仮想化はデータセンターの省エネ化ベストプラクティスのトップにリストされており(「省エネ化の方法は?」を参照)、多くのCIOたちが仮想サーバ群を数台の物理サーバに統合している。IBMやHP、デルといった大手メーカーのブレードサーバとともに、いまや絶好調のVMware(この夏、IPOで10億ドルを調達した)が提供するサーバ仮想化ツールが、コンピューティング密度を新しい次元へと押し上げた。
調査会社IDCでは、米国内で今年販売されるサーバの10%はブレードになると予測する。「ここにきて高密度サーバは爆発的に販売を伸ばしている。2007年はまさに踏み切りラインを越えた」と、同社グローバル・エンタープライズ・サーバソリューション担当副社長のジーン・ボズマン氏は話す。
残念ながら電力インフラは、データセンター技術の進展に追随できていない。バッテリーや発電機、消火器などは、10年前とそれほど変わっていないのだ。アマゾン・ドットコムの副社長でCTOのウェーナー・ボゲルズ氏は、「データセンターの電力は1940年代の技術だ」と語る。言い換えれば、データセンターはいまも有限なエネルギーを利用しており、その状況がすぐに変わることはないということだ。したがってCIOは、限られたスペースの中で無駄なエネルギー消費を抑えるために、サーバの密度を高め、効率的に冷却する方法を見つけなければならない。
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明治学院大学 経済学部准教授