IT化の進んでいないがんセンターに電子カルテやタブレットPCを導入し、業務の効率化を図る新任CIO。コンピュータ作業になじみのない医師たちの反発を受けながらも彼がとった行動とは。
フェアクロース氏がネバダがんセンターにCIO(最高情報責任者)として採用されたとき、新施設のオープンは6カ月後に迫っており、同氏はそれに向けてITを整備しなければならなかった。それまでフェアクロース氏は、主に銀行、リゾート、カジノといった業界でキャリアを積んでいた。サマ、ゴールデン・ナゲット、MGMグランドなどに勤務し、MGMでは世界最大の5000室のホテル兼カジノのオープンにかかわった。
フェアクロース氏は医療業界の経験はなかったが、1968年からラスベガスの住人で、地域のIT事情に精通し、そこでの物事のやり方を心得ていた。また、同センターとMGMのつながりも同氏の助けになった。同ホテルは大量のネットワーク機器を寄贈していた。「MGMに電話して、力を貸してほしいと頼むと、スタッフを派遣してくれる」(フェアクロース氏)
フェアクロース氏が最初に取り組んだのは、引き継いだ計画の再検討だった。同センターは当初からEMR(Electronic Medical Record:電子カルテ)システムを導入しようとしており、ほかのがん医療センターが開発したテンプレートを利用することが計画されていた。だが、この医療センターは、同センターのような外来施設ではなく、入院施設だった。
フィラデルフィアに本拠を置く米国がん協同団体連合の議長を務めるロバート・コミス医師は、EMR技術はまだ初期の段階にあり、導入がうまくいかず苦労しているケースもあると指摘する。
「EMR技術の導入では、CIOの役割が極めて重要だ」と同氏。「自組織のためだけではなく、ほかのシステムとの連携のために、革新的なプラットフォームが必要だ。EMRはまだあまり普及していない。わたしが医師になって以来現在まで、EMRは掛け声ばかりが先行している。しかし、EMRシステムは今後、多種多様な情報を活用するための基盤になるだろう。医療機関はどこも、どの程度自前で開発するか、どの程度既存技術に合わせるかで頭を悩ませながら、ペーパーレス化に挑んでいる。これは大変な取り組みだ」
ネバダがんセンターにとってもそうだった。フェアクロース氏は4人のITスタッフを引き継いだが、どのスタッフも、EMRベンダーとして選定されたIMPACメディカル・システムズの技術にあまり詳しくなかった。そこでフェアクロース氏はただちに、プロジェクトマネジャーに加えてシステムとネットワークの専門家としてIMPACの元従業員を採用、EMRのノウハウの吸収を図った。
「がん研究のために開発されたEMRシステムはあまりない」とマンノ医師は語る。「患者のすべてのデータをデータマイニングの対象として保管できるソフトウェアプログラムを求めていた」
選定されたEMRテンプレートは、同センターの業務のやり方に合わせて導入するために、何カ月も費やしてワークフローコンポーネントをカスタマイズしなければならなかった。「1つの建物内にすべてがそろっているがんセンターはあまりない」とフェアクロース氏。「われわれはそうしたワンストップのがんセンターだ。数時間あれば、ラボとMRIのすべてのプロセスを完了させることができる。患者フローに対するわれわれの考え方が、ほかの一般的ながんセンターとは異なっているからだ。そのために、テンプレートを手直しするのに6カ月かかった」
新施設の建設が進み、EMRシステムの不備を解決する作業が行われている間、医師たちはラスベガス内の小規模な診療センターで紙のカルテを使って医療に当たっていた。そして新施設への移転に先立って、ペーパーレス化を実現する新システムが稼働を開始した。しかし、新システムへの移行はすんなりとはいかなかった。
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明治学院大学 経済学部准教授