大企業C社のD工場は、長年生産管理が混乱していた。製品の納期は恒常的に遅延し、製造工程の不良品や能率管理が正確に把握できず、棚卸資産は底の方に長期間動かない停滞品があって常に過剰、従業員のモラールも低下していた。E工場長はかねてから業界で知り合いの個人コンサルタントFに、D工場生産管理の抜本改革を依頼した。Fは知識も経験も豊富で、分析力もあり、論理的で、一見理想的なコンサルタントだった。
しかし、Fは部長以上を相手にした。特にE工場長と接触する機会が多かった。従って製造現場では、コンサルタントが入っていることさえ知らなかった。結果は、FコンサルタントがD工場の上澄み液をすくってE工場長に飲ませただけだった。Fが去った後、D工場の混乱した実態は変わらなかった。
コンサルティングは、理屈どおりには進まない。現場に降りて、実務や人間に密着することによって本音が解り、問題が把握でき、真に使い物になる改善ができるのである。
もう1つ、コンサルタントが気をつけるべき重要なことがある。
しばしば、コンサルタントは無責任だと揶揄される。例えば現状分析だけで終わった、残した成果物が後を引き継いだSIにとって全く役に立たなかった、高尚な理屈を述べるだけで、去った後はなしのつぶてだ、などの批判をよく聞く。
コンサルタントは、己の成果を最後まで見届ける執念を持たなければならない。見届けるために時間と経費が必要なら、見積書に提示すればよい。事情をよく説明した結果クライアントが予算の関係で「見届ける」必要がないとした場合でも、なしのつぶてでいることはコンサルタントの良心が許さないだろう。どんな製品でもアフターケアについては、ある範囲は無料で対応する。
コンサルタントは、目的を具体的に示した上で、それを見届ける執念を持たなければならない。それが、コンサルタントの良心というものだろう。
コンサルタントは、基本にあくまでも「お客のため」という心を持って、お客に恨まれるほど信念を貫くこと、本音に触れて着実な改善をするために現場に密着すること、そして最後まで責任を持つという執念を失わないことがお客から求められていることであり、成果を上げるための決定的要素である。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授