【第6回】トップの任免に関与するための実験ミドルが経営を変える(1/2 ページ)

無能な経営トップに社員が引導をわたす。日本でも危機意識の強い企業ではこうした事例がいくつもみられた。昨今は、会社経営のあるべき姿を目指し社員らがトップを正当な手段で罷免できるような仕組みづくりも検討されているという。

» 2008年09月16日 09時45分 公開
[吉村典久(和歌山大学),ITmedia]

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 「日本のサラリーマンは、そんなにばかじゃない」――これは、ある大手銀行に勤務する40代前半のビジネスマンの口から出た発言である。今回の連載では、ミドルがトップに「モノ申す」ための究極の手段として、トップの任免の過程にどうやってミドルを参画させるかという仕組みについて述べたい。

 冒頭のような発言があったのは、「最近、おたくの景気はどうですか」とビジネスマン数人と挨拶程度の会話をする中で、ミドルがトップの任免にかかわる実効性などについて筆者が話題を投げかけたときであった。

 前回の連載では、労働組合あるいはミドルが旗振り役となり、経営者にモノ申し、引導をわたすいくつもの事例を紹介した。そこにあったのは「御用組合」などと揶揄(やゆ)される従順かつ弱々しい姿ではなく、トップを前にしてロアー、そしてミドルが堂々とモノ申す姿であった。

 しかし、堂々とモノ申したとはいえ、そのタイミングは遅きに失した感が否めないものでもあった。業績の長期にわたる低迷、社内に漂う停滞感ややる気のなさ、さらには違法な不祥事。これらが引き金となりはじめて、正面切ってモノ申すことを決行したのである。

 バブル崩壊後、トップの任免、けん制のあり方については議論百出であった。さまざまな意見が出る中、最も声高に叫ばれたのは「株主主権」を前提として、そのあり方を考えていくべし、との意見であった。中でも、株主の声を経営に取り入れていく手段として社外取締役の役割を重視すべし、との意見は強硬に主張されることが多かった。研究者の世界でいえば、法律学者あるいは経済学者(とくにファイナンスを専門とするもの)の多くはこうした主張を持っていたといえよう。

 一方で、社外の人材が果たしうる役割には限界があるのではないか、より効果的な別の手法があるのではないか、との意見も主張されてきた。彼らは、企業経営の現場を歩き回ることが多い経営学者あるいは労働経済を専門とする経済学者であった。経営者の任免、けん制の役割を委ねる先は、企業経営が中長期にわたって健全な形で展開されることを切に願うとともに、それに必要な現場情報を手中にしている従業員、特にミドルが適任ではないか、との意見を彼らは表明してきた。その中には、けん制という手法には避けがたい「遅れ」という限界があることを頭に置いて、実効性を高めるための具体的な制度の設計にまで踏み込んだ主張もあった。

会社経営に社員を参画させる

 そうした主張を具体的に見ていこう。現行の法制度を前提とすれば、経営者の任免、けん制にミドルをはじめとする従業員を参画させる手段としては、会社制度上の機関自体に従業員(代表)を含める方法がある。あるいは、経営者を選ぶ過程に何らかの形で従業員の声を反映させる方法もある。

 前者の具体的な方法としては、取締役会への従業員代表の参加、あるいは、知日家の研究者として著名なロナルド・ドーア教授(ロンドン大学)が唱えられているように、監査役会に参加させることも一案である*1

 後者の具体的な方法については、伊丹敬之教授(元・一橋大学、現・東京理科大)が相当に詳細な設計案を世に問われている*2。この伊丹試案では、会社のミドルを中心とした「コア従業員」の代表による経営者の参考信任投票の仕組みが提示されている。ここでいうコア従業員とは、「一定レベル以上の管理職と一定年数以上の長期勤続者」にあたる人材である(具体的な基準は、各企業で規定を定めればよいとされている)。


*1 ロナルド・ドーア[1998]「従業員監査役制の導入を」『日本経済新聞』(1998年12月1日付朝刊)、ロナルド・ドーア[2006]『誰のための会社にするか』岩波新書

*2 伊丹敬之[2000]『日本型コーポレートガバナンス――従業員主権企業の論理と改革』日本経済新聞社

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