新製品のセミナーや研修会は、ユーザーにとってIT導入を検討するきっかけになると同時に、ベンダーにとっては新規顧客を獲得する絶好の機会だ。それにもかかわらず……。
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効果的なIT導入の進め方をこれまで検討してきた。IT導入にかかわる人は情報システム担当者やシステムインテグレーターなど社内外の関係者だけでなく、先回取り上げたマスコミやベンダーなどが主催する新製品セミナー(研修会)の場合もある。
今回は、筆者がいくつかの研修会で経験した納得しかねる事例を紹介したい。
S社主催のCRM(顧客情報管理)製品研修会での出来事だ。同製品は既に販売実績があり、採用企業の営業担当者や経営者などあらゆる層から満足を得ているらしい。彼らの必要とする営業データが、リアルタイムで取得でき、分析が可能である。分析結果のグラフ表示、強調表示も可能である。商談を進める上での障害や課題を明確にし、対策を提示する。
営業管理面では代理店管理や営業活動管理など、売り上げ予測面ではデータ分析のグラフチャート表示など、営業情報面では商品納入管理や契約管理などが可能になるという、若手社員の講師による説明がなされていた。
筆者は、このソフトを導入して果たして講釈どおりに機能するのかという疑問を持った。しかし、説明中に質問時間は設定されておらず、講師の説明後は実演を行って研修会が終了した。その後にSEらしき数人が個別質問を受ける形だった。
これは問題だ。個別対応ではなく、出席者全員の前で質疑応答することに意味がある。質疑応答が公になることで、質問者も回答者も緊張感を持ち本当のやり取りができる。
納得いかないと思いつつも、筆者は講師のもとへ行き質問した。その一部始終である。
増 「S社のCRMが優れていることはよく分かったが、営業担当者のデータ入力が不適切な場合はどうなるのか」
講 「いや、データは正確に入力してもらわないと駄目です」
増 「しかし、営業マンは貴重な情報ほど隠したがるし、商談の進度などは本人が把握していれば他人に知らせる必要はないと考え、入力したがらないはずだ」
講 「入力は実に容易になっています」
増 「簡単、難しいといった問題ではなく、営業マンの信念の問題だ」
講 「入力してもらわないと意味がありません」
増 「だから、入力したがらない営業マンに入力させるにはどうすればいいのか」
講 「そこまで責任持てません」
増 「そこまで考えてユーザーに提案するのが本当のセールスだし、他社との差別化もできると思うが」
講 「……」
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明治学院大学 経済学部准教授