CO2本位体制が始まった地球温暖化が変える企業経営(1/2 ページ)

地球温暖化問題は今や、経済の問題、産業の問題、個人の生活の問題になっている。

» 2008年11月11日 08時25分 公開
[ITmedia]

 国連環境計画・金融イニシアテイブ(UNEPFI) 特別顧問 末吉竹二郎氏は、早稲田大学で講演し、「もはや企業にとって空気を使うこと自体にもコストがかかる時代になった。世界的金融グループはCO2排出量を注視し、融資審査の重要な基準として動き始めている」として、地球環境問題が経済、産業、そして個人生活まで幅広く影響するという時代の変化を訴えた。以下はその講演内容の一部をまとめたものだ。



空気を使うこと自体にコストがかかる時代に

「空気を使うこと自体にコストがかかるという強烈な変化が始まっている」と語る末吉竹二郎 国連環境計画特別顧問

 ある新聞に、こんな記事があった。かの古典派経済学の祖であるアダム・スミスと、古典派経済学を批判的に取り入れたカール・マルクスが、くしくも同じことを言っていたというのだ。その言葉とは、「この世には、値段がつかないものが2つある。1つは水であり、もう1つは空気だ」というものだったそうだ。

 かつては確かに水と空気は、いくら使ってもタダだった。しかし、水はすでに明らかに高価なものになっている。水をめぐって戦争さえ起きるぐらいの状況になっている。

 では、もう1つの貨幣的価値が付けられない自然資源である空気の方はどうだろうか。水のように一般的に売買される商品にはなっていないものの、空気にも今、立派な値段がつき始めている。CO2に値段がつき、政治や経済、社会を動かし始めているのだ。

 例えば欧州では「欧州排出量取引制度」が2005年から施行されている。これは、EU域内にある約12000の大量にエネルギーを消費する事業所や工場などにCO2の排出枠を交付するというものである。この排出枠はEU-Allowanceと呼ばれているが、キャップ・アンド・トレードのキャップと考えてもいい。

 このキャップは、2012年まではタダで交付されている。つまり、EU-Allowanceの範囲内、キャップの範囲内であれば無償だが、それを超えると罰金を科されるわけである。しかし、2008年1月にEU委員会は、2013年以降つまりポスト京都議定書ではEU-Allowanceを無償で交付するのをやめて、各企業や事業所が必要とするものについては最初の1トンから入札で購入させることにしたのだ。

 これはものすごい変化である。もはや空気はタダではないのだ。空気を使うこと自体にコストがかかるのである。世界に目を向けると、CO2の排出量取引は2007年には27億トン、金額にして6兆円で、2008年には42億トン、10兆円に達すると予測されている。そして、もしもアメリカにもキャップ・アンド・トレードが導入されると、2020年には米国1国だけで1兆ドルくらいの取引高になると言われている。実に巨大なマーケットである。

機関投資家は企業に温暖化対策を求める

 世界の年金基金といえば、ワールドワイドで最大級の株式投資をしているグループだが、その年金基金が投資判断に新しい視点を取り入れ始めている。すなわち環境(Environmental)、社会的責任(Social)、ガバナンス(Governance)の3つであり、それらの頭文字を取ってESG問題と呼んでいる。これはもともと2006年4月に国連が中心になって作った責任投資原則というものであり、年金基金もその原則に従い始めたということである。企業が年金基金から良いエクイティ・ファイナンスを受けるには、そういう変化を読み取る必要がある。

 このところ、米国では機関投資家が投資先の大企業に対して地球温暖化対策に関する株主提案を盛んに行うようになってきている。2008年の提案件数は54件で、2006年の2倍になっている。もちろん、そうした機関投資家の提案は、企業にとっては大きな圧力となる。例えばフォード社では2020年までにCO2排出量を30%削減することを公約したが、それは機関投資家の圧力があったからである。

 エクソンモービルに対しては、このままでは企業価値が損なわれるからということで、今年の株主総会において、機関投資家がCO2の排出量削減の目標値の設定をはじめとした地球温暖化対策に関する4本の株主提案を行った。また2008年の2月には、50の機関投資家が国連本部に集まり、気候変動リスクを回避するために再生可能なエネルギーに関連するビジネスに向こう2年間で1兆円を新規投資するというプランを発表した。

 このように機関投資家は新しい判断基準のもとに、従来とは違うさまざまな行動を展開し始めているのである。

地球環境に配慮した融資活動を推進

 金融に関連しても大きな変化が起きている。例えばCitigroupは2007年5月に、再生可能なエネルギーに関連するプロジェクトを支援するために、向こう10年間で5兆円の資金枠を用意したと発表した。メインは融資だが、一部はCitigroupが使うビルのグリーン化に充てることにしている。つまりエネルギー効率が良く、最も環境に負荷がかからないビルにするということである。

 HSBCでは、気候変動センターを設置し、1億ドルを用意してNGOを中心に気候変動に取り組み始めている。また、口座を通帳から電子媒体に移すとキャッシュバックするというサービスなども展開し、環境配慮型の金融機関として世界で最も高く評価されている。

 Deutsche Bankでは、経済と環境と社会をバランスよく統合することにより、持続可能な金融を推進している。さらにJPM Chaseは、これからは将来世代のことも考慮した融資をしていくことを表明している。従来の融資は現代世代に大きな影響を与えるものばかりだったが、これからは融資行動が結果として未来世代、将来世代にどういうインパクトを与えるのかということまで考えて融資の判断をするということである。

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