システム導入に成功していないのに誤解し、虚構の成功体験に固執しているケースも存在する。導入したシステムが初期の計画に反して一部業務にしか適用できなかったり、あるいはシステムが役に立たないので依然レガシーシステムにかじりついていたり、ローカルシステムを密かに運用したりしている場合などは、システム導入に失敗したと断言できる。しかし、システムに関係する当事者たちは自己保身のために失敗を認めたくないし、公にしたがらない。トップは成功していると誤解し、IT導入に決着がついたとして、一切の動きを止める場合がある。
以上のように、(1)実質的に導入に失敗したり、機能の一部しか適用していなかったりするシステムを成功したとみなして、機能補充を不要とする、(2) 進化するIT技術に目もくれず導入したシステムを見直すことを拒否する、(3)市場や経営など客観情勢も主観情勢も変化しているのに、大昔に導入に成功したシステムを後生大事に抱え込んだりする、といったケースは珍しくない。
ここから脱却するには、トップ自身の自覚と、システムにかかわる当事者のトップへの進言しかない。トップが企業の生き残りと発展を目指すなら、常に現状を否定すること、疑問を持つこと、関係者の意見に耳を傾けることを心掛けなければならない。すると成功システムの呪縛(じゅばく)からのブレークスルーが可能となる。
一方、システムの関係者は成功に固執するトップの変心を目指して、執念深く進言を続けなければならない。簡単に引き下がらない、不退転の姿勢が求められる。
いずれも期待できないときは、トップも従業員も先のない企業と心中してもらうしかない。
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授