東レの情報システム部門長、重松直氏は「厳しい時期には創意工夫をいかに凝らしていくかが大切。部門にとっての成果とは何かを常に明示していきたい」と話す。
東レは売上高1兆6000億円(2008年3月期)を超える総合化学企業集団である。創業以来の主力事業である繊維事業が占める割合は40%以下となっており、プラスチック・ケミカル、情報通信材料・機器、 炭素繊維複合材料、環境・エンジニアリング、ライフサイエンスなどの各事業を展開している。世界20カ国でグループ経営を行い、その形態は「連邦経営」と呼ばれるものになっているという。その連邦の中心的位置にある企業の情報システム部門のトップを務める重松直氏は、現在の逆風をどうとらえているのだろうか。
ITmedia 東レのIT部門にとって、ここ数年で最もプライオリティの高い仕事とは何でしょうか。
重松 一口でいえば、東レ単体も含めたグループ各社のシステムをいかに最適な形にしていくか、ということにつきると思います。グループ経営といっても、関係各社は独自色を存分に出しながら仕事をしています。その環境の中でいかに役立つシステムを作っていくかを、それぞれの関係会社と協力しながら考えていくわけです。
ITmedia 東レと関係会社、あるいは関係会社同士で連携してビジネスを進めるというケースで最適なシステムとは何かを探っていくわけですね。
重松 製造、営業、販売といった役割を各社で分担して進めるケースもあります。そこでわれわれはこれまでの経験を生かしながら、どういうアプリケーションを使えばスムーズにいくのか、どんなひな形を使えばすぐにビジネスをスタートできるかなどを提案していくわけです。
ITmedia 提案ですか。命令一下、これを使ってくださいという形ではないのですね。東レほどの企業グループだと、どうしてもそんなイメージをもってしまいがちですが。
重松 できるだけ役立つソリューションを提案、提供するということですね。グループ各社の情報化についての責任は持ちますが、命令して「これを使いなさい、これ以外は使ってはならない」というようなことはないですね。あくまでギブアンドテイクです。関係会社にとって良い「ギブ」をすれば、われわれは新しい知恵とグループ全体での最適なシステムを作り上げるという「テイク」を得られるわけです。
ITmedia SOAなどの技術を使って共通の情報基盤を構築するといったことは?
重松 グループ全体でそうしたものを構築しようとすれば、膨大な投資が必要です。ネットワークやセキュリティといったインフラ部分の共通基盤は大切ですが、アプリケーションレベルでそれをやろうというのは、今のところ現実的ではないでしょう。われわれのような素材産業というのは、金融などの事業、また同じ製造業でも組み立て作業が中心の企業とは性格が異なります。情報化といっても、つきあたる問題が違うのです。素材をお客様に提供するケースもあるし、最終製品にして市場を通じて消費者に使っていただくこともある。そういう中で、いろいろな業界の企業と連携します。その連携もビジネスによってまったく内容が異なってくる。そこでグループ各社の情報化を最適化するには、ビジネス規模やプロセスの種類、連携する会社の役割ごとに、できるだけ標準化しやすいシステムのひな形を考えることが先決になります。
ITmedia 個別対応をしているようでも、しっかりとブロックごとに標準化していくわけですね。
重松 小さな会社と大きな会社との組み合わせなら何が最適か、また製造部門を担う会社と営業を担う企業との連携ではどういうツールが最適か、中国の企業と日本の企業との組み合わせではどうか、そうした組み合わせの中で最も良いソリューションを考えていくわけですね。国によってはコストも違ってきますし、サポートの方法も違ってきます。幸いにも、現在各関係会社から、われわれの方に情報がしっかり上がってきていますから、それだけ知恵を貯えて役立てることができます。
ITmedia 関係各社との情報化やシステムに関するコミュニケーションは良好にとれている?
重松 5人ほどのスタッフが常に関係会社と連絡を取り合っています。海外の拠点もカバーしていますから、ケースによってはわたしも出向いて「あるべき姿とは何か」を念頭に最適化を進めています。
ITmedia 海外の拠点もですか。カバーする範囲が広いですね。しかも責任はあるが権限はさほどでもない……。
重松 仮に予算も掌握して大きな権限を持っていれば、最適なシステムを素早く構築できるかというと、決してそんなことはないと思いますね。やはりユーザーは役立つものを提供されるからわれわれの話に耳を傾けるのだし、提供されたものを使うのだと思います。押しつけられたものを使っても、それは標準化、最適化とはほど遠い結果しか生まないでしょう。われわれ情報システム部門は「グループのシステム化」のほかに「情報活用力」「(仕事の)流れの改革」をミッションとして掲げています。こうした課題についても同じことだと思います。現場の話に耳を傾け、自分のデスクに戻ってからその内容を抽象化して、多くの現場で役立つ知恵に変えていくわけです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授