勉強会の初日、「これから何を検討するか」についてのブレインストーミングが始まったものの、日夜現場の仕事に追われている宮下と奥山からは目の前の課題しか挙がってこない。
内山悟志の「IT人材育成物語」 前回までのあらすじ
「ブレインストーミングには書記役が必要だが、それは僕がやろう」と言いながら川口はホワイトボードの前に立った。
「どんなテーマでもいいのですか」男性社会の典型例のような情報システム部の中で、数少ない女性ながら活発で何事にも物怖じしない奥山が、いつものようにはきはきとした口調で聞いた。
「もちろん、どんなテーマでも構わない。しかしせっかく検討するのだから、できれば自分たちの部門の仕事に役立つテーマの方が望ましいな」。あまり枠を設けない方がブレインストーミングの主旨に適っているとは思いつつも、多少の方向性は示してやらないと話が進みにくいと川口は思った。
「それでは、『情報システム部はなぜ残業が多いのか』というのはどうでしょう」。奥山が切り返すように1つ目のアイデアを出した。矢継ぎ早に「どうして情報システム部には女性が少ないのか」と続けた。
万事慎重だがいつも確実な仕事ぶりの宮下がようやく口を開いて「なぜシステム開発の品質が上がらないのか」という意見を出した。その後、二人が日ごろから問題だと思っているテーマが次々と出され、川口はその要点を整理しながら記録していった。
川口は、次々と出されるアイデアを黙って書き記しながら、二人の発言が少しとどこおるころ合いを見計らっていた。出てくる内容は確かに情報システム部の現場で働く彼らにとっては気になることだろうし、検討の余地があるものもあった。しかし、列挙されたテーマはいずれも目の前の問題ばかりだった。
そう感じた川口は、さらに少しだけテーマの方向性を示そうと「もう少し目線を高くしてごらん」と投げ掛けた。すると2人は、キョトンとした表情で顔を上げ、会議室の天井に目をやった。
「おいおい、そういう意味じゃないよ」
3人から一斉に笑いが起こった。
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