新型インフルエンザが大流行してから2カ月が経った。連日のように大騒ぎしていた過熱報道もだいぶ沈静化した。フランスから今回の一件を考察したい。
新型インフルエンザに関して、ゴールデンウィーク明け直後くらいまでは、日本の知人などから「フランスの方は大丈夫?」とか「感染していたりしない?」といった連絡をもらっていたけれども、今や「日本の方が大丈夫?」とわたしの方が彼らを心配している始末である。第一次世界大戦中に世界を恐怖に陥れたスペイン風邪は軍隊の移動によって世界各地に広まっていったという話を聞いたことがあるが、人の移動がかつてないほどに活発になった現代では信じられないほどの速さで流行が拡大していく。文字通りの「小さな世界」を実感してしまう。
インフルエンザといった流行性の感冒のことをフランス語では一般的にgrippe(グリップ)と表現する。今回のインフルエンザは、即座には実態の把握できない新型ウイルスだったこともあり、フランスでも連日、感染者の増加や自国への影響などが大々的に報道されてきた。テレビ局の中には発生源とされているメキシコに記者を送り込んで、患者などを突撃取材したところがあった。
小さな世界の主たる担い手である航空業界においては、エールフランスのある機長がメキシコ便への搭乗を拒否したということもあった。実は数年前の鳥インフルエンザの感染拡大に際してエールフランスは所属機長に対して感染拡大国への便への搭乗を拒否することを容認していた。このような動きを受けてフランス政府は4月29日にEU(ヨーロッパ連合)加盟各国に対し、メキシコからの「帰国便」の受け入れのみを認めて、メキシコへ向かう便には客を乗せないようにすることを求めた。すなわち事実上のメキシコへの渡航禁止措置であるが、片道だけを空っぽで飛ばすのは経済的に割に合わないという航空各社の声もあり提案は却下された。
フランスでは内務省を中心として省庁横断型のCellule interministerielle de crise(CIC、「省庁間危機管理対応室」とでも訳そうか)が設置され、新型インフルエンザへの対応策が検討されてきた。上述の渡航禁止措置提案もその1つだったが、結局CICはメキシコからの到着便のスポットをシャルルドゴール空港のうちターミナル3(格安航空会社や不定期便が就航する小さなターミナル)に割当て、メキシコからの帰国/入国者をほかの乗客から切り離すことを決定した。
そのほかにもフランス政府がインフルエンザワクチンだけでなく、使い捨てマスクや医療用マスクなども大量にストックしていることが広報されたし、電話での相談窓口も設置された。手洗い、うがいの重要性や、今後の拡大の危険性も考えて自宅に水や食料を備蓄する必要性なども伝えられた。このような対策からはフランス政府が感染拡大だけではなく国内のパニックをいかに起こさないかということに腐心している様子がうかがえる。
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明治学院大学 経済学部准教授