ようやく大局的な課題が洗い出され、検討テーマが決定した。川口は、勉強会の初回から頭をフル回転させてアイデア出しを行った2人を慰労しようと会社近くのいきつけの食事処に誘った。
内山悟志の「IT人材育成物語」 前回までのあらすじ
「これから何を検討するか」についてのブレインストーミングは佳境に入っていた。川口の巧みな誘導のかいもあって、宮下と奥山の2人からは核心を突いた大局的なテーマが数多く挙がった。特に、休憩後の“最後のひと絞り”では、「情報システム部の5年後のあるべき姿とはどのようなものか」、「いかにしてIT部門が業務改革をけん引できるか」など非常に壮大かつ根源的な重要テーマが次々と挙がり、ホワイトボード一杯に約30のテーマ案がぎっしりと書き込まれた。
次に、出そろったアイデアを絞り込む話し合いが行われ、最終的に「事業に貢献するIT活用のあり方とは」という検討テーマが決定した。
「さて、2時間近く頭を使って少し疲れただろう。今日はここまでにして、近くにご飯でも食べに行かないか」と川口が2人を誘った。
「大賛成! 正直、ヘトヘトです。こんなに集中して頭を使ったのは久しぶりです」と疲れ気味の様子を見せていた宮下は元気を取り戻したように立ち上がった。帰り支度をした3人は連れ立って、会社の近くにある川口が行きつけの和食処ののれんをくぐった。
座席に着くと間もなくしてお通しとビールが運ばれてきた。「じゃあ、今日はわれわれの勉強会のささやかな出陣式だ」という川口の言葉の後、一斉に「乾杯!」の声が上がった。
3人はしばらく今日の勉強会の話に花を咲かせた。3人がこうして会社帰りに連れ立って飲みに来たのは実は初めてのことだった。宮下と奥山は、川口を仕事のできる先輩として尊敬していたし、いつもストレートでフランクな振る舞いにある種の憧れを抱いていた。しかし、情報システム部はいつも忙しく、残業するメンバーも多いため部内の何人かだけが「お先に」といって飲みに行く雰囲気ではなかった。数少ない歓送迎会などの時でも出席率はいつも半分程度だった。
「ところで川口さん。川口さんはいつも仕事がすごく速いですよね。何か効率的に仕事を進める秘けつでもあるのですか」と宮下が真面目な顔で質問した。
「秘けつなんてものは無いよ。強いて言えば、仕事の優先順位には気を配っているかな」と川口が少し照れながら応えた。「わたしも前から聞きたいと思っていたのですよ。優先順位ってどういうことですか」と奥山も興味津々に問い返した。
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明治学院大学 経済学部准教授