ファンケル 中島理人化粧品カンパニー 副カンパニー長【対談連載】石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(1/3 ページ)

世の中の「不」を解消することを企業理念に掲げるファンケルは、顧客満足を最優先に考えたマーケティングを実践する企業といえるでしょう。その取り組みを聞きました。

» 2009年09月16日 08時30分 公開
[石黒不二代(ネットイヤーグループ),ITmedia]

 「肌トラブルの“不安”に悩む女性を助けたい」という思いで1982年に「無添加化粧品」を生み出したファンケル。以来、世の中の「不」の解消を目指して、サプリメント、青汁、発芽米などへと事業を拡大しています。今回は、化粧品カンパニーの副カンパニー長でありCRM部長である中島理人さんにインタビューを受けてもらいました。

 通信販売で事業を始めたファンケルには、大上段で論議されがちなCRM(Customer Relationship Management:顧客情報管理)よりも、その基本であるお客様の不満を解消し満足を引き出す精神が企業文化に行きわたっていることが何よりの強みだと感じました。

CRMの原点とは?

ファンケル 化粧品カンパニー 副カンパニー長の中島理人氏 ファンケル 化粧品カンパニー 副カンパニー長の中島理人氏

 中島さんは、インタビューの冒頭で、CRMとは一人一人のお客さまと向き合っていくことだと話してくれました。CRMでは、もちろん、データマイニングなどの技術的な分析が重要ですが、こういう心の声を持っている人がやらないと単なる技巧に陥りがちです。通販会社として事業をスタートしたファンケルにとって、CRMというものが他企業よりはなじみ深いものであるのは当然です。

 元々通販は、インターネット以前はマスメディアから最も離れたところに位置するマーケティングツールでした。大量生産、大量消費、大量流通に適するマスマーケティングでは、効率を最大化するマーケティングであるのに対して、DMや通販などは、ターゲティングメディアと呼ばれ、適切なターゲットに適切なオファリングをすることによる関係強化を図るものだからです。よく知らないたくさんの人に少しだけ買ってもらうではなく、わたしを好きなあの人にたくさん買ってもらう、という世界です。好きになってもらうためには、お客さまと向き合い、お客さまの嗜好を知らなければいけません。これが、CRMの原点です。

徹底したければ組織づくりから

 ただし、嗜好を知ることはゴールではありません。お客さまと長い関係を作ることがCRMの目的です。中島さんは、顧客にリピートしてもらって初めて通販の意義があるとおっしゃいます。

 2回目、3回目、さらには5年、10年と続けて購入してもらうことで成長してきたファンケルは、2007年12月に、商品を強化する商品本部と販売力を強化するチャネル本部という売る側、作る側、サービスする側を一気通貫させるために1つの事業部として統合し、さらにCRM部門を分離昇格させました。作る側と売る側には利益相反が起こります。部分最適が全体最適につながるとは限りません。

 インターネットの世界でも、例えば商品の宣伝を担当する宣伝部とコーポレートを担当する広報部のメッセージが一致しないことが多く見られるようになってきました。メディアごとあるいはタッチポイントごとではなく、一顧客へのメッセージを一貫させるために組織を変更する会社も見受けられるようになってきました。中島さんがおっしゃるように、CRM部門として、顧客に対面するための組織づくりが大切なのです。

 ファンケルでは、すでに具体的な効果が現れています。これまで商品企画部門が主導でタイムツーマーケットなマーケティングを進めてきましたが、必ずしも全社横断的な取り組みとは言えませんでした。今回の組織改革で、このプロセスに営業部門や流通部門まで巻き込んだことによって、新しい商品が顧客により早く届くようになりました。売る側と作る側を結んだことで、消費者ニーズも適時なスピードで作る側にフィードバックされるようになりました。今後、さらに顧客の嗜好が多様化し、顧客とのインタラクションが早くなることにより、商品のライフタイムも短くなれば、ますます、この考え方は一般化してくるでしょう。

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