明暗両面の指標が並存する水面下の景気回復景気探検(1/2 ページ)

依然として低い水準での回復ではあるが、GDPが上昇傾向にあるなど、景気の最悪期からは抜け出したといえよう。

» 2009年09月25日 07時45分 公開
[景気探検家・宅森昭吉,ITmedia]

 鉱工業生産指数・7月分速報値は前月比+1.9%と5カ月連続の増加になった。5カ月連続の増加は1999年7月分〜11月分以来である。2008年2月分の鉱工業生産指数は110.1で史上最高水準だったが、2009年2月分では69.5まで大きく低下し、わずか1年間で1983年7月分(69.5)以来の低い水準になっていた。7月分速報値では82.4まで戻したがこの水準は1987年8月分(82.6)以来の82ポイント台である。

 ちなみに製造工業予測指数前月比で延長すると2009年9月分は87.1という水準まで戻るが、これは前回の景気の谷近辺のボトムである2003年11月分の87.0とほぼ同じレベルにすぎない。方向性は着実な改善傾向だが、足元ではまだ生産水準は依然低レベルにある。水面下の回復が続く見通しだ。

 製造工業予測指数前月比は8月分が+2.4%、9月分は+3.2%と先行きも増加が期待されている。実現率は3カ月連続で、予測修正率は5カ月連続で上振れとなったのは思ったより足元の生産が強いという証拠であろう。

 また、4〜6月期の実質GDP(国内総生産)成長率は、前期比+0.9%、前期比年率+3.7%と5四半期ぶりのプラス成長に転じた。輸出の回復、エコカー減税やエコポイントなどの政策効果による個人消費の持ち直し、公共投資の1998年10〜12月期以来の高い伸びを主因に、設備投資や住宅投資の落ち込みをカバーし、しっかりした成長率になった。

GDPは引き続きプラスに

 11月16日発表予定の7〜9月期GDPを、8月末時点判明の関連データ7月分を4〜6月平均と比べ推測しよう。個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の7月分の対4〜6月平均比は11.7%の大幅増加となった。需要サイドのデータでも乗用車販売台数は同17.1%の増加である。環境対応車の購入にかかる減税・補助の政策効果が出ている。

 一方、厳しい所得・雇用環境下ということから供給サイドの関連データである非耐久消費財出荷指数は同1.0%の減少だ。また、需要サイドの関連データでは、家計調査の実質消費支出(除く住居等)の7月分の対4〜6月平均比は0.7%の減少である。以上のように、個人消費関連データから総合的にみると、実質個人消費の7〜9月期は政策効果によりプラスの前期比にはなるものの、4〜6月期の前期比0.8%よりは低めの増加率になる可能性が大きいだろう。

 設備投資の関連データである資本財出荷指数の7月分の対4〜6月平均比は7.2%の増加となった。資本財(除、輸送機械)は同1.0%の減少となった。なお、建設財は同2.6%の減少となった。供給サイドから推計される7〜9月期第1次速報値では、実質設備投資の前期比は4〜6月期のような大幅減少とは違った内容になる可能性がありそうだ。

 実質輸出入の動向をみると、輸出の7月分の対4〜6月平均比は+7.9%、輸入が同+4.7%であり、仮にサービスを含めても同じ伸び率だと仮定すると外需の前期比寄与度は+0.5%程度のプラスになる。7〜9月期実質GDPでの外需は4〜6月期のような大幅なものではないにせよプラス寄与要因にはなりそうだ。

 さらに日本テレビ系番組「笑点」の視聴率からもGDPの傾向は予測できる。GDP統計と関連性がある笑点の「その他娯楽番組」週間視聴率ランキングで第1位をとった回数は、GDPが史上最悪だった10〜12月期は6回、1〜3月期は5回だった。4〜6月期では普通の平均的状態である1回にとどまった。笑いで不況を吹き飛ばす必要が少なくなったのだろう。7〜8月で笑点が第1位になったのは1度だけ、押尾学関連の事件が報道された8月9日までの週だけだ。「ネプリーグ」の視聴率が下がり「笑点」が第1位になった。

 以上の関連データからみると、11月16日に発表される7〜9月期の実質GDP成長率は、プラス成長にはなるが4〜6月期よりは前期比の増加テンポは緩やかになりそうだ。

 今回の拡張局面は水面下の景気回復と言えるもので、水準的にはまだ低い。例えば実稼働率は6月分で59・1%と設備投資が増加する目安の77%水準に届いていない。設備投資が直ちに出てくる状態ではまだない。

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