Webマーケティングの改善を試みるも、思った成果を上げられないと腐心する企業は少なくない。リクルートエージェントが1年以上にわたって実施した「Web構造改革」からは、課題の個々を改善するのではなく、経営戦略やコスト削減とどう結び付くかをまでを考えることが成功の秘訣であることが分かる。
人材紹介大手のリクルートエージェントは、コスト削減とWebサイトからの転職希望者の登録数増を両立させるべく、2008年にWebマーケティングの抜本的な改革に踏み切った。
具体的にはリスティング広告の費用を4分の1に減らしたり、SEO(検索エンジン最適化)対策を徹底することで「転職」という単語の検索順位を25位から4位に押し上げたりした。Webマーケティングの基本事項を徹底的に洗い直すとともに、Webサイトをつかさどるシステムインフラの改善や人材の再配置なども行い、同社の経営戦略にも踏み込んだ。地道な改善が実を結び、総コストを年間で数億円削減することに成功した。
企業がWebマーケティングを強化するに当たり、SEOやSEM(検索エンジンマーケティング)などの個別事項に注力しがちだ。だが同社の取り組みが物語るのは、経営視点を踏まえて改善を進めないと、コスト削減と登録者増の両立といった具体的な成果には結び付かないということだ。
リクルートエージェントは、2008年4月からあらゆる角度でWebマーケティングの課題を抽出し、それを1つずつ改善していった。その分野はリスティング広告、Webサイトの刷新、ランディングページの最適化など多岐にわたる。このプロジェクトの旗振り役を担った経営統括ユニット マーケティング企画部の青葉哲郎部長は総コストを減らし、転職希望者の登録数を増やすことを目標に掲げ、1年以上にわたって各項目にメスを入れていった。
大規模の企業ではWebマーケティングの手法を抜本的に変えるのは至難の業だ。Webマーケティングを実現する部門が宣伝、サイト構築、コンテンツ作成などの縦割りに分かれていることが多く、1つの解決策に落とし込むのが難しくなる。結果として対処療法的な改善で済ませてしまうことも少なくない。
だが青葉氏は全体最適の観点に立ち、Webサイトの設計、年間予算の振り返り、複数の業務を担当する人材の再配置など、無駄取りを徹底していった。コストが掛からない構造を作らないと、抜本的な問題解決にはつながらないと考えていたからだ。
目的の1つであるコスト削減において、まずはリスティング広告の運用を見直した。「エンジニア」など単価の高い検索キーワードの購入を止め、「転職」という単語に職種や資格関連、業界用語などをひも付け、「単価の低いキーワードを幅広く作っていった」(青葉氏)。購入したキーワードの数は7万以上、作成した広告コピーの種類は1万種類に及ぶ。
働きながら転職を考えている人にとって、勤務時間中は転職サイトを使いにくい。そこで昼休み時間である12〜13時や勤務時間が終了する夜の時間帯のキーワードを購入し、それ以外の時間帯の購入を抑えた。これにより、リスティング広告関連のコストを4分の1程度にまで減らせたという。
また、Webサイト関連のシステムは稼働から10年以上が経ち、人手が掛かる割にスムーズに情報を更新できないという問題を抱えていた。「つぎはぎだらけで老朽化していた」(青葉氏)というシステムをコンテンツ管理システム(CMS)に入れ替え、担当者が情報を更新しやすいようにした。転職希望者に情報を配信するメールマガジンのシステムも刷新し、運用コストやそれに掛かる人件費などを下げることに成功した。
Webサイト経由で転職希望者の登録数を増やすために取り組んだのがSEO対策だ。検索エンジンのクローラーにWebサイトを認識してもらうという基本に沿って、掲載する情報や外部サイトからのリンク数を増やし、レイアウトを変更していった。結果、「転職」というキーワードの検索順位が1年前の25位から4位に上がった。検索結果の1ページ目に同社サイトの情報が表示されるようになり、検索エンジンからのサイトへの流入者数が大幅に増加したという。
検索エンジンから利用者が訪れる「ランディングページ」には、100種類以上のパターンやキャッチコピーを用意した。例えば「横浜 転職 エンジニア」と検索した利用者が来るランディングページには、「その利用者が必要とする地域情報などを含む求人情報を自動的に表示するようにした」(青葉氏)。またGoogleやYahoo!JAPANなどの検索エンジンごとにランディングページを微調整し、異なるクリエイティブを表示させるようにした。きめ細やかな対策を講じたのは、「属性や転職サイトをみる場面、検索の目的はそれぞれ異なる」(青葉氏)という利用者目線を追求したからだ。
Webサイトの刷新も力を入れた。例えば情報の配置1つにしても徹底的にこだわる。同社のサイトを開くと、求人情報ではなく転職の成功事例や転職コンサルタントのコンテンツが表示される。「転職を漠然と考えている利用者にいきなり転職関連の情報を出すのは失礼」と青葉氏。こうした気配りも、転職希望者の登録のコンバージョン(成約)率の増加に貢献しているという。
そのほか、レコメンドエンジンの導入、エントリーフォームの改善、mixiを活用したリターゲティング広告の展開も並行して行った。同社のWebマーケティングの刷新は、全方位から課題を抽出し、それを1つずつ改善していく大がかりな取り組みだった。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授