創業者一族が代々経営権を継承してゆく、いわゆる同族企業には、特有の難しい問題が存在する。例えば、先代社長時代の番頭さんなど古い社員たちと、現社長が採用した新しい社員たちとの融和をどう図ってゆくか。また、現社長の“新しい仕事のやり方”になかなか先代時代の社員が順応しないといった場合にはどうするか? これは同族企業ならではの悩みだ。特に、現社長が企業革新に取り組み、自分の色を出してゆこうとする場合、しばしば先代の意思決定を覆すことになりかねない。そうした場合に、先代時代から勤めるベテラン社員は、心理的に抵抗を示すものだ。
「経営権を継承した時点で、古い社員を全員解雇して、自分が選んだ社員だけで再出発するという企業も存在します。しかし、そういうやり方だと、長年かけて蓄積してきた“現場の知”が一挙に失われてしまいます。私は逆に、その“知”をいかに汲み上げてゆくかこそが大切だと考えています。
私が社長になったと言っても、私が子供のころからこの業界の現場で頑張っていた方々もいらっしゃるわけで、その経験にはとてもかないません。
だから、私はとにかく虚勢を張らないようにしています。最初は格好悪いかなとも思ったのですが、辞を低くして、自分の困っていることを正直に打ち明けて、みんなに意見を出してもらうようにしているんです」
田中社長はこともなげにそう話すが、具体的に誰に対して、どういう方法で行っているのだろうか。
「新旧全社員に分け隔てなく接することで、両者の融和・融合を図ることが大切だと考えていますので、新旧全社員に向けて、回覧板を回すというスタイルを取っているんです」
コミュニケーションレベルに濃淡の差をつけず、しかも、社長自らが、積極的に「自己開示」してゆくというのは、なかなかできることではない。しかし、それを実行できたときの効果は著しい。
「そうなんですよ! 知識の豊富な古参社員だけでなく、若い新入社員も、ものすごく積極的に手助けをしてくれるんです。おかげでこれまで、どれだけ助けられたか分かりません」
田中秀子社長のこの姿勢には、実は、もう1つの重要な成功の鍵が隠されているようだ。上記のようなやり方で意見を吸い上げた後、その意見をきちんと経営に生かしているのである。
世間には、社員に対して「意見を出せ!」といつも言っている半面、その意見が採用された試しなどなく、社員たちもそれに気づいていて、結局誰も意見を出さなくなるという会社がとても多い。しかもそういう会社に限って、「社員に意見を求めても、ろくな意見を出さない」などと社長が腹心にぼやいていたりするのだ。
その点田中社長は、現場から上がってきた意見を経営の中に具現化しており、そのことが社員に達成感を与え、経営への参画意識、自分たちが会社を支えているという「当事者意識」を醸成しているようだ。そしてそれが、ますます多くの「意見」を出す原動力になっていることは言うまでもない。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授