インタビュー
» 2010年02月21日 13時30分 公開

あなたの知らない“ハイサワー”の世界――博水社社長・田中秀子さん(後編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(4/7 ページ)

[嶋田淑之,Business Media 誠]

 もう1つ、新しい社員が入社してきたとき、社長として彼(彼女)にどう接し、どう指導するかということも大切なポイントになるだろう。新しい社長は、新人を早く「自分色」に染めたいという思いからか、えてして親身な「熱血指導」をしがちである。

 しかし、田中社長は違う。「新人が現場に入ったら、私はその新人に対して極力、口を出しません。現場には、その現場なりの指導の仕方というものがありますから……。もし私がそこに割って入れば、新人は、どっちの言うことに従えばよいのか困惑しますし、現場の古い社員も困ってしまいます。命令系統を一元化しておくことは大事だと考えています」

 現場の混乱を防ぐために新人の指導には口を出さないとおっしゃる田中社長。それには、別の効果もあると筆者は考える。それは、田中社長のこの姿勢を通じて、古参社員たちは、「自分たちに任せてくれている」「信頼されている」という意識をもつことができるということだ。すなわち、上記の現場の意見の積極的採用・実現と同様に、社員たちに、より強固な、プロとしての「当事者意識」をもたせる好結果を招いているのである。

理念を明文化――情報をみなの宝にしよう!

 田中社長の代になって、代々継承してきた家訓を、分かりやすいスタイルで「企業理念」としてまとめ、発表した。

企業理念

人に欠かせない水をベースに 人々に喜ばれる飲料を創り出し、多くの方々に愛される企業を目指しております。博水社の「博」の文字は「広く知らしめる」の意。信頼される商品を広く提供させて頂こうと努めます。昨今、健康志向のもと、安心・安全にこだわり、一致団結して取り組んで参ります。


 田中社長の決意と覚悟をあらわして間然とするところがない企業理念といえよう。しかし、たとえ20人規模の企業であったとしても、企業理念を、全社員が日々体現して行動するようにするのは決してたやすいことではない。

 毎朝、朝礼で企業理念を唱和させたり、毛筆で書いた理念を額縁に入れて社内に掲げたり、研修会を実施したり……多くの企業では、さまざまな手を用いているが、そうした“くわだて”は、おおむね、効を奏していないことが多い。

 「弊社の場合は、“情報を皆の宝にしようね!”というのを社内キーワードにしています。酒問屋、居酒屋、スナック……などなど日々接している“現場”で個々の社員が得た情報を、きちんと職場に持ち帰り、それを全員で“確実に”共有化するようにしているんです」

 「些事に神宿る」と言われる。一見取るに足らないと思われるような些細な情報の中にこそ、宝石のような価値のある“現場の真実”が隠されていることは多い。だからこそ、現場で得たちょっとした情報も、それをそのままその社員が死蔵して忘却の彼方へと追いやってしまうことがあってはならないのだ。

 「何のために情報が必要なのか?」――それは「企業理念」を実現するためである。「企業理念は何を目指しているのか?」「個々の社員は、日々の業務の中で、どうやって、どういう情報を得ればよいのか?」「そうやって得た情報は、どういうタイミングで、誰に、どうやって伝わればよいのか?」「それはその後、どうやって社内で共有化されるのか?」「共有化された情報に基づいて、個々の社員はどんなアクションを起こせば『企業理念』の実現に近づくのか?」――こうした「情報」の扱いに関する経営プロセスを明確にし、それを徹底するのが、田中社長のスタイルだ。

 どんなお酒を、どのハイサワーで割ったらおいしいかなど、現場からの情報やアイデアが生きた例は、枚挙にいとまがない(参照記事)。「“情報”の適切な扱いを通じた“企業理念”の実現」は、博水社にとって、まさに生命線なのである。

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