日本企業の目下の急務はビジネスプロセスの改善世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

日本と世界のCIOが直面している課題には差が見られる。ガートナー ジャパンの小西一有氏は日本企業がビジネスの課題を解決する方法として「ビジネスプロセスの改善」を強調する。

» 2010年04月14日 08時00分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 米Gartnerの調査「2010年のCIOの課題」から、日本と世界のCIO(最高情報責任者)の意識や注力すべき課題の差が明らかになった。この結果を日本企業はどうとらえるべきか。ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム エグゼクティブ パートナーの小西一有氏に聞いた。

調査概要

Gartnerは2009年10〜12月に「2010年のCIOの課題」を調査し、全世界1600人以上のCIOの回答を得た。調査に参加したCIOは世界41カ国の企業、政府、公共機関に所属している。日本では50人のCIOが回答し、IT予算の合計は1兆1000億円超で、1社当たり225億円程度の予算である。


世界は「予兆分析」を視野に

 同調査でビジネス面の優先度を聞いたところ、日本のCIOは「企業コストの削減」を1位に挙げた。一方、世界のCIOは、2005年から6年連続で「ビジネスプロセスの改善」をトップに掲げている。日本と世界のCIOの業務面での課題は異なっている。

CIOが考えるビジネス面での優先度 CIOが考えるビジネス面での優先度(出典:ガートナー)

 優先度の違いの中で注目すべきは、世界のCIOが「情報/分析機能の利用拡大」を3位に挙げている点だと小西氏は話す。情報/分析機能の利用拡大とは、企業が社内のデータから市場の変化を正確にとらえ、ビジネスの変化の予兆をつかむことで、事業や戦略に生かす取り組みのこと。ビジネス部門がCIOに期待する分野とも言い換えられる。日本では、同項目の優先度は10位にとどまっている。

 世界のCIOが情報分析を優先するのは、「経営に対するアジリティ(俊敏性)に期待しているから」(小西氏)。彼らは経済や市況の変化に対応するためのデータ活用を重視し、コスト削減後の成長戦略を描いている。データ主導で未来の事業戦略を計画する「予兆分析」が、企業の経営判断に俊敏性をもたらす。

 「アジリティの確保に向けてIT部門が身に付けるべき能力は、ビジネスプロセスやコスト構造の可視化、システムの単純化、戦略を変更する柔軟性だ」と小西氏は強調する。

ようやく芽生えた日本企業の危機意識

 一方、日本のCIOは3位に「変革イニシアティブを成功させる」を挙げている。同調査における変革イニシアティブは「顧客や市場に対する行動ターゲティングを行うこと」(小西氏)であり、具体的には、新興国などの新たな市場に対してマーケティング活動を強化していくことを指しているという。

 これまでトップ10に入っていなかった同項目が躍進した理由は、「不景気でモノが売れない現在の景気動向にある」(小西氏)。「30〜40年前はいい品物やサービスを的確な値段で出せば売れたが、現在はそうではない。米IBMや米Hewlett-Packard(HP)は日本市場でシェアを獲得しているが、国産ITベンダー各社は海外市場を開拓しきれていない。日本企業は、海外で太刀打ちできないことにようやく気付き始めた」と小西氏は続ける。

 新興国市場では「品質を落としてでも、価格が適正ならば爆発的に売れる」(小西氏)という。日本市場が飽和する中、日本企業は海外市場に出て現地法人と競争し、利益を獲得していかなければならない。こうした危機感が、変革イニシアティブという回答に反映されているという。

急務となるビジネスプロセスの改善

 日本企業はこうした課題をどう解決していくべきか。小西氏は世界のCIOの優先度で1位となったビジネスプロセスの改善を強調する。日本企業の現状は、「具体的にどうビジネスプロセスを改善すればいいかが分からない状態」だという。

 「海外企業は、会社がうまく回らない原因がビジネスプロセスにあると理解し、各部門のプロセスを全社横断で見て、プロセスに携わる全員に責任があると考える」(小西氏)。一方、日本企業では「営業、設計、調達、製造、物流、回収部門が縦割りの構造を取ることが多く、例えば製品が遅延した場合、誰が謝罪するのかという責任の押し付け合いが始まる」。

 ここでビジネスプロセスの改善が求められるというわけだ。ビジネスプロセスは、企業活動にかかわる各部門の動きを標準化し、経営の舵取りをしやすくする。ビジネスプロセスの整備に寄与するのは、各部門や業務と密接に関連するIT部門だ。「課題の本質を分析してほしい。業務フローの最適化ではなく、意志決定が異なる組織を横断するプロセスを定め、業務の流れを可視化することが必要だ」と小西氏は強調する。

 「企業が利益を出すためには、モノを売る仕掛けが必要であり、組織全体の能力を高めていかなければならない。その能力を高めるのがビジネスプロセスの改善だ」。小西氏はIT部門を軸にビジネスプロセスを改善し、企業の足場固めをすることが、課題の解決につながると力を込める。

ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム エグゼクティブ パートナー 小西一有氏 ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム エグゼクティブ パートナー 小西一有氏

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