南米諸国の日系人との結び付きを「世界一蹴の旅」からすべて教わった(1/2 ページ)

W杯を出場する32カ国を巡る「世界一蹴の旅」では、ワールドカップイヤーの今年に入ってから2カ月にわたり、南米の出場5カ国(チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル)を訪問してきた。

» 2010年04月25日 07時55分 公開
[ヨモケン(Libero),ITmedia]

連載「世界一蹴の旅からすべて教わった」の過去記事はこちらよりご覧いただけます。



 サッカーワールドカップ(W杯)南アフリカ大会まで約2カ月となり、国内外のメディアでも徐々にW杯ニュースの扱いが大きくなってきている。そんな中、W杯を出場する32カ国を巡る「世界一蹴の旅」では、ワールドカップイヤーの今年に入ってから2カ月にわたり、南米の出場5カ国(チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル)を訪問してきた。

 日本代表チームの不動のセンターバックである、トゥーリオこと田中マルクス闘莉王選手。彼は日系2世の父親の下、ブラジルで生まれ育ったブラジル人である。高校時代に日本へ留学し、そのままJリーグ入りした。その後、帰化申請が受理され、日本代表入りを果たした。呂比須ワグナー選手、三都主アレサンドロ選手のように、過去にブラジル人から日本人に帰化して、日本代表選手としてW杯へ出場したプレーヤーもいるが、トゥーリオ選手が今回W杯に出場すれば、日系人としては日本サッカー史上初のW杯出場となる。今回の寄稿では、トゥーリオ選手のような南米に住む日系人にスポットライトを当てたい。

130万人もの日系人コミュニティー

 僕らの南米での旅の道中、パラグアイとブラジルで日系人の方々と知り合うことができた。実際に彼らと顔を合わせて会話したり、飲み交わしたりする中で、彼らへの興味がわき、移民博物館を訪れたり、移民に関する書籍を読んでみたりと、どんどんその世界に引き込まれていった。

パラグアイの日系移住地「イグアス」の鳥居

 トゥーリオ選手を例にすると、彼の祖父、つまり日系1世と呼ばれる人たちというのは、日本から移住してきた民ということで「日系移民」と呼ばれている。同じ1世でも、移住してきた時期はさまざまだ。しかし、その多くは戦前戦後の日本がまだまだ貧しかった時代に集中しており、個々人で事情こそ違うが、みな南米に自分たちの未来を託して、渡ってきたのである。

 そんな日系1世たちが、現地で子孫を残し、2世、3世と血を継いでいくにつれ、日系人コミュニティーはどんどん大きくなり、現在ブラジルだけでも約130万人の日系人がいるそうだ。南米各国の日系コミュニティーは、それぞれ異なるカラーを持っており、僕らが訪れたパラグアイとブラジルでも、状況は大きく異なっている。

 前述したように、南米最大規模となる130万人の日系人が在住するブラジルに対し、パラグアイの日系人はわずかに7000人。前者は巨大コミュニティーであるが故に、非日系人との婚姻なども多く、それらをきっかけにして「日本人らしさ」は徐々に失われつつある。2世、3世になると日本語を話せない日系人も多い。トゥーリオ選手も16歳で来日するまでは、ほとんど日本語を話せなかった(一方で、セルジオ越後さんのように上手な日本語を話す人たちもたくさんいる)。

 パラグアイでは、日本語教育や日本の伝統など、日本人らしさを守るための自発的な活動が盛んに行われていて、日系人の日本語レベルも高い。僕らが出会ったバレーボールでパラグアイ代表の日系人女性も、まるでネイティブのような日本語を操っていた。彼女の両親は共に日本人だが、彼女の国籍はパラグアイである。日本には数えるほどしか行ったことがないそうだ。当然ながら、彼女はパラグアイの公用語であるスペイン語もネイティブレベルだ。

バレーボールでパラグアイ代表の日系人女性

 こうした日系人が存在していることを何となくは知ってはいたが、改めて目の当たりにすると、不思議な気持ちがわいてくる。日本人は単一民族に近く、日本で生まれ育った人間でないと、日本語をはじめとした日本文化を知りえないという先入観があったからだ。

 日系人の存在や日系移民の歴史的背景について、日本ではあまり詳しく教わることがない。だが、詳しく知れば知るほど、教科書には載せられない事情が垣間見える。また、そうした日系コミュニティーを色あせたものにしないように、現地でJICAの青年海外協力隊やシニアボランティアが、日本らしさを新しい世代へ伝える活動をしている。

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