2010年は「3D元年」になるかハリウッドは本気(1/5 ページ)

『アバター』の登場をきっかけに、3D映画への関心が急速に高まっている。放送局、テレビ業界、ゲーム業界、家電業界を巻き込む一大ムーブメントになりつつある3D市場の方向性を考えてみる。

» 2010年05月05日 09時04分 公開
[松永 エリック・匡史,ITmedia]

お祭り騒ぎ

 2010年は「3D元年」と呼ばれています。3D映画『アバター』が驚異的なスピードで『タイタニック』が持っていた世界映画興行記録を塗り替え、3Dが一躍注目されるようになりました。それに続くかのように各家電メーカーは3D対応テレビを発表。放送業界では、NHKがBS11で既に3D放送を開始しています。ジュピターテレコムは4月に自社のケーブルテレビサービスをスタート、スカパーJSATは2010年夏に3D映像配信を始める予定です。

 ゲーム業界では、ソニーがPlayStation3の3D対応をシステムアップデートで実現、一方任天堂はDSシリーズに、眼鏡を使わない裸眼3Dを実装した新しいDSシリーズを投入します。盛り上がる3Dですが、提供者側のお祭り騒ぎとは裏腹に、サービスを利用する側からは「3Dは流行らない」「3Dじゃなくてもいい」「あんな重い眼鏡かけてテレビ見ないでしょう」など否定的な意見も耳に入ってきます。

 現在、3Dを体感する場として、各家電メーカーはショールームでのイベントなどを通して3Dを体験させる取り組みを行っています。実際に体験すると期待はずれなことが多く、映画を体験した人より否定的な意見が多い気がします。2010年が3D元年になり得るのかはさまざまな場で議論されていますが、どうしても視点が技術寄りに偏ってしまう傾向があります。消費者は、3Dの技術的な方式よりも、感動的な3D体験がしたいのです。

3C+Tの視点

 正直なところ、技術的な視点は一般ユーザーからすればどうでもいい話です。もちろん素晴らしい3Dを体験してその仕組みが知りたくなるというのは分かりますが、3Dを体験する前から技術的概念を理解しようとするでしょうか。サービス提供者側も、提供している情報がユーザーに届かなければ意味がありません。両サイドのニーズをフィットさせるために、3D市場を3C+Tの視点で整理すると分かりやすくなります。

 3Cとは、Contents(コンテンツ)、Comfort(快適さ)、Collaboration(協調)、Tは3Cを実現するためのTechnology(技術)です。面白いコンテンツが快適に、手軽に楽しめるか、それをどんな技術が支えているかを整理するわけです。            

コンテンツの視点

 最初に確認しておきたいのは、3Dは最近になって登場した技術ではないことです。映画業界では、テレビの急激な普及に伴い映画離れが深刻になり、3Dという話題性で1969年の映画『飛び出す冒険映画 赤影』が日本最初の3D映画として上映されました。雑誌のおまけでお馴染みの「アナグリフ式」と呼ぶ、赤と青のメガネをかけて3Dを見せる仕組みです。当時の3D映画は、全編3Dではなく、映画からの合図で一部だけメガネをかけるようなものでした。現在の3Dと比較するようなものではなかったのです。

 『飛び出す人造人間キカイダー』(1973年)も話題にはなりましたが、制作コストとメガネを配布する手間が掛かりました。3Dという話題性だけで客が集まるほど甘くないのが実情で、結局は続きませんでした。ハリウッドでも1983年に『13日の金曜日 パート3』『ジョーズ3』と3D作品をリリースしましたが、それほど立体感がなく、映画自体もB級でぱっとしませんでした。結果的に、消費者は3Dへの興味を失っていったのです。

 また意外にも1980年代にビデオ機器とゲーム機の世界でも3Dの製品はすでに登場していました。ビデオ機器ではLD(レーザーディスク)との規格争いに敗れたVHD(Video High Density Disc)が、1980年代後半に液晶シャッター内蔵のメガネで左右の画像を交互に見せる方式でビデオ映像の3Dビデオ機器を、ゲームでは同じ時期に同じ方式でファミリーコンピュータ向けに別売りで「ファミコン3Dシステム」が販売されました。しかし80年代の映画と同様にVHDに関しては、20タイトル、ファミコンソフトも7タイトルと絶対的に少ない数しかリリースされず、これといったキラーコンテンツもなかったため、そのままビデオ機とゲームの3Dはひっそりと消えていきました。

 結果的に、3Dは時代とともに消えていきました。過去に失敗した3D関連の商品には共通点があります。3Dという話題性と期待はあるものの、それを満足に変えるような優れたコンテンツがなかったことです。コンテンツと技術のどちらが先かは、鶏と卵の議論に例えられます。しかし、この分野については、コンテンツがなければ流行らないということが過去の映画、メディア、ゲームの事例からもよく分かります。まずはコンテンツであるといえるのです。

 では、コンテンツという視点から、3D元年である2010年はどうなっているでしょうか。映画ではアバターに続き、『タイタンの戦い』『アリス・イン・ワンダーランド』『バイオハザードIV』、アニメ系もディズニーの『スパイアニマル・Gフォース』『トイ・ストーリー3』『シュレック フォーエバー』と話題の大作が続きます。それ以降も『ハリーポッター』シリーズ、『トランスフォーマー3』『スパイダーマン4』などが登場する予定で、話題には事欠きません。3D映画コンテンツに関してハリウッドは本気なのです。

 映画以外でも、スポーツコンテンツで、ゴルフPGAツアー、サッカーのFIFAワールドカップなどの3D中継が発表されています。PS3、DSともにキラーコンテンツの3D化が期待されます。2010年は、コンテンツという面で3D元年に相応しいコンテンツが広いジャンルでそろう見通しが出てきました。

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