開発手法が一味違う、奥深きゲームソフト業界を攻略する――コーエーテクモの松原社長石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(1/3 ページ)

コーエーとテクモが経営統合したのが2009年の4月、松原健二社長は新たに組織再編をし、めまぐるしく変わる市場環境に挑む。

» 2010年08月20日 11時45分 公開
[石黒不二代(ネットイヤーグループ),ITmedia]

 「信長の野望」のコンテンツさながら、これを開発するコーエーテクモホールディングスは、群雄割拠のエンターテイメントコンテンツ業界で長年にわたりリーディングカンパニーの地位を守っています。コーエーとテクモが経営統合したのが2009年の4月、2010年は新たに組織の再編成をしてめまぐるしく変わる市場環境に挑みます。

 その代表取締役社長を務める松原健二さんは、日立製作所でエンジニアとしてのキャリアをスタート、米国MITのスローンでMBAを取得した後、外資のOracleに転職、さらに、全く経験のなかったゲーム業界のコーエーで社長を務めるキャリアの持ち主です。

コーエーテクモの松原社長(左)

 松原さんに最初にお会いしたのは、ファーストリテイリングの最初のe-コマースプロジェクトをネットイヤーグループがオラクルから任されたときでした。ネットイヤーグループの代表的プロジェクトでもあります。あれから10年がたち、松原さんに連絡をとった理由は、純粋な国産の代表企業から外資の大手、エンジニアがMBA、そして技術とはいえ未知であるゲーム業界への転身という経歴から、相反する組織や業務を経験した人の言葉を聞きたいという興味からです。

 温厚なお人柄だからこそ、この幅広い経験に柔軟に対応しているのがよく分かります。群雄割拠のゲーム業界におけるこれからのコーエーテクモの戦略をたっぷり語ってくれました。

国産大手でモノづくりを学び、外資でその勘を生かす

 純粋な国内大手総合電機メーカーでキャリアをスタートさせたことは、松原さんにとってよい選択だったそうです。モノづくりが面白いと思わせてくれたのは日立だったとおっしゃいます。ところが、松原さんの所属する工場からは30年来で初めてのMBAということで、留学はキャリアパスの選択肢が広がるというよりも、どういう進路がいいか分からない、という状態になり、退社してシリコンバレーの大手ビジネスソフト開発Oracleに入社することになります。

 外資系大手の日本法人の経営陣が必ずと言っていいほどぶつかる壁は、本社の中央集権ぶりと日本法人の権限のなさです。わたしの経験上も日本企業が米国に進出した際のマネジメントは、かなり地方分権色が強いのですが、米企業傘下の日本法人はその反対です。この点に関して、オラクルでの様子を聞くと、エンジニア出身の経営者松原さんは、その軸足の大切さを教えてくれました。

 Oracleでは、オリジナルパッケージの開発は米本社が行い、日本支社である日本オラクルでは、ローカライズを担当します。ローカルで対応できない開発ももちろん多く、それを米国側に対応させることは難しい。一方で、日本側の営業は、このニーズを開発できれば案件がクローズすると必死なのですが、それは、オラクルのパッケージ上で動くアプリケーションでやるべきことも多々ある・・・・・・。そんな勘所が分かるのもモノづくりの現場出身だからこそ、すべてを本社丸投げにしておきる摩擦を事前に防ぎ、全体最適を計ることもできたようです。

オンラインゲームはコミュニティー

 ソフトウェアとはいえ、経験のないゲームソフト、しかもご自身はそれほどのゲーマーでないとおっしゃる松原さんが代表を務めるにあたって、その背中を押した1つの要因は、オンラインゲームというインターネットサービスでした。オラクルで培った経験とは一見ずいぶん違うようですが、インターネットサービスに変わりはありません。クライアントがあり、サーバがあり、データベースがありと言う意味では同様なのだそうです。

 コーエーの成功は、最初のタイトルにあります。これが『信長の野望Online』です。発売までに長い歳月を要したものの、2003年6月のローンチから7年、今も3万数千人がお金を払ってくれるタイトルはそうあるものではありません。ゲーム業界ではヒットを飛ばすことが生き残る秘訣(ひけつ)であることは間違いなさそうです。

 さらに長く続く秘訣として、オンラインゲームはコミュニティーであるということです。通常のパッケージソフトのゲームはクリアして終わりですが、オンラインは仲間と遊ぶのが中心の毎日です。MMO(Massive Multiplayer Online)というカテゴリーで、信長の野望の場合は、同時に5000人がプレーすることが可能です。7人でチームをつくってモンスターと戦いますが、長いものになるとみんなで2時間プレーすることもあるそうです。

 常に、新しいものを配信できる。だから、飽きさせない。ユーザーがモデレーターとなりチームを作り、戦略を立てるなど、自分たちで遊び方を膨らませることもできます。なるほど、これは、パッケージソフトとは全く違った面白みがあります。また、コミュニティーを活性化するために、コーエーテクモが提供するゲームマスターがおもてなしの役割を果たしています。ユーザーの質問への返答や、イベントの企画など、時にはけんかの仲裁に入ることもあるそうです。

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