メンバーは迷いながら部屋の中を動き回り、ようやく自分の立ち位置を決めた。普段はなかなか明らかにならない声がここから明らかになる。
コーチが問い掛けながら中心に近い人から声を出してもらう。各メンバーの声は主に以下のようなものだった。
中心に最も近かったチームリーダーDさん
「みんなそんなに離れたところなのか。中心にいるのは僕一人なことに落胆し、寂しい。何より自分の力不足を感じる。B部長に顔向けできないよ」
メンバーEさん
「Dさんには申し訳ないと思いつつ、やっぱり日々の仕事に謀殺されて、経営計画のことはつい忘れがちです。我が社の危機的な状況を思うと、今こそ会社に貢献するべきだと思うけれど、あまりに問題が大きすぎて無力感を感じています」
メンバーGさん
「目標も達成できない自分が、こんな大きなテーマに関わるのはおこがましいと思っています。まず自分の業績目標を達成してから口をきけ、と言われているように感じるんです」
メンバーFさん
「どうせ今回もこれまでの取り組みのように、しばらく盛り上がってはいつの間にか消えていくお決まりのパターンじゃないかと、冷めた目で見ています。ISOやA社横断プロジェクトなど、いろんな取り組みにこれまで随分翻弄されてきましたからね」
メンバーは最初こそ口が重く、発言のたびに場には緊張感が走ったが、不思議なことに本音が出れば出るほど、場の雰囲気は楽で開放的になっていった。コーチは、過去の取り組みの苦労やB部長の存在が、直接的には存在しないがこのチームの「ゴースト」として影響を与えており、またこの会社の組織文化として、業績の達成が極めて重要視されているあまり、未達の人は発言しにくい風土があることを反映した。
続いて、「経営計画の現実化」について本当はどのようにかかわりたいのか?という問いに対して立ち位置を示してもらった。今度は大きく配置に変化があった。E、F、Gさんは共に中心へと近づき、むしろリーダーのDさんは3人を俯瞰できるような外側の場所に立った。全員がチームを見渡しながら、「できそうな気がする」「さっきよりも自由で楽」「こんなに互いに近づいたのは初めて」といった声があがった。チームは前向きでリラックスした雰囲気になっている。
チームは日常をこの状態に近づけるための具体的な行動について話し合い、コーチング期間中は、毎週水曜日の夕方「経営計画の現実化」のための定期ミーティングを持ち、その後チームで飲みに行くという計画を決めた。コーチはミーティング後の報告メールを受ける確認をとった。このチームは互いを信頼し、勇気をもって本音を伝え合えるチームであることが認知され、第2回目のコーチングセッションは終了した。
果たしてこの「チーム“笑う正直者”」がシステムコーチングを通じてどのような変貌を遂げていくのか、次回のセッションにも是非ご期待いただきたい。
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筑波大学第一学群社会学類卒業。住友銀行より日本総合研究所に転じ、同社研究企画部長を経て2004年CTIジャパン代表に就任。その後2008年に(株)ウエイクアップ、2009年にCRRジャパンを設立。個人と組織の本領発揮を促し、「世のため人のために活躍する人材」の志と絆を育むべく活動中。共著書に「コーチングのプロが教えるリーダーの対話力 ベストアンサー」がある。CTI認定資格CPCC(Certified Professional Co-Active Coach)CRR認定資格ORSCC(Organization & Relationship Systems Certified Coach)
国際基督教大学教養学部卒業後、カリフォルニア大学サンタバーバラ校にてアジア太平洋研究修士課程修了。三和総合研究所(現 東京三菱UFJリサーチ&コンサルティング)国際本部研究員、リクルート、HCソリューション部、シニアコンサルタントを経て独立。現在、グローバルセンセーション代表 組織におけるチームビルディングや風土改革、夫婦や家族の関係性の強化、また個人の夢の実現など、コーチングを通じて、社会の中における個人が互いに認め合い、成長し合う関係性を支援している。CTIジャパンのリーダーとして、コーアクティブ・コーチングを伝えるとともに、システム・コーチ養成機関であるCRRのグローバル・ファカルティでもある。「コーチング・バイブル」(東洋経済)共訳。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授