業務を標準化することで未来は拓けるか?Gartner Column(2/2 ページ)

» 2010年12月24日 08時00分 公開
[小西一有,ITmedia]
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 特に、国内では、多くの経営トップが、IT/CIOの「IN」における価値しか気付いていない可能性が高く、結果的にITを単なるコストセンターとして扱ったり、自社の競争優位性を製品性能か価格にしか求めることが出来ない企業体質に陥ったりさせている。

 最初に出てきたCIOは「In the Business」にフォーカスを当てて仕事をしていくとおっしゃったように、わたしには聞こえました。間違いだと思わないけれども、そこだけにフォーカスするのは少し違うように思えたのです。CIOが率いるITやIT部門の可能性やケイパビリティは、自社の「IN」にも「ON」にも非常に重要なリソースであるからです。

 話は、急に変わるようですが、皆さんは「人材育成」についてお悩みを持たれることがありませんか? わたしのところには、本当によく相談が寄せられます。「次世代のマネジャーを育成するために、何をすればいいのでしょうか?」とか「うちは、人材の層が薄くて、今のマネジャーたちが高齢化してきたら、どうなるのだろう?」と異口同音にお聞きします。

 「IN」ばかりに長年、集中した組織に所属していた人材は、「IN」で仕事をすることに慣れていますし、社内のあらゆることをよくご存知でしょう。そして、専門領域内では明らかに「エキスパート」になられていると思います。しかし、もし「ON」の領域で仕事をすることになったら、どうでしょうか? やはり、「エキスパート」として働けるでしょうか?もちろん、会社が変わったりしたら、いきなり従前通りの「エキスパート」として働くのは難しいことでしょう。しかし、同じ会社で同じ業務領域で、「IN」と「ON」が変わった時はどうでしょうか?

 ニューノーマルという言葉を、あちらこちらで耳にしますが、「将来が読めない」「時代の変化が早すぎて追随するのが難しい」などの現象に対して使われるようです。みなさんは、ニューノーマルを肌で感じることはありませんか? わたしは、人材育成の話が、ここにつながってきているのではないかと考えています。つまり、時代の変化が激しすぎて、「IN」でばかり仕事をしていたITリソースにも、「ON」サイドからプレッシャーが相当にかかってきており、従前の要員では対応しきれなくなってきているのではないかという仮説です。

 「それは、テクノロジが急速に変化してきたから、要員が育たないのだ」とお考えの向きもあるでしょう。そして、「ITは、当社のコア・ケイパビリティとして認められていないから、人材に投資できない」「ITを理解してくれる経営トップがいないから良い人材を集めることができない」などの愚痴もよくお聞きします。テクノロジの変化に対応できるだけの十分な投資を行ってもらえないということを表現されているのかもしれません。

 これらの愚痴が嘘だとは言いませんし、事実なのでしょう。しかし、これらの愚痴が出てくるように仕向けたのは、「IN」にばかりフォーカスを当て続けた結果かもしれないのです。

 わたしは、ビジネスサイドのエグゼクティブから「当社のITは、こちら側が、言ったことは確かによくやってくれるのだが、ビジネス・アイデアのようなものを膨大な情報リソースをマネジメントする立場から提案してもらったことがない」というような愚痴をよくお聞きします。このビジネスサイドからの愚痴は、テクノロジの急速な変化に起因するものでしょうか?

 どちらが鶏でどちらが卵か。少なくとも、わたしの立場から言わせていただくと、ITサイドにもっとビジネスを理解し、ビジネスを先導する役割を担ってくださいと言いたいです。

 前述しましたが、「IN」と「ON」はバランスが大切です。どちらか一方でもダメですし、どちらもダメでは言語道断です。両方をバランスよくやらなければならないのです。少なくとも、CIOという全社(人によっては、特定リージョン全体やビジネスユニット全体)を俯瞰し、IT組織やITリソース/ケイパビリティを経営に活かすことを生業にしている以上は、このことを無視してはなりません。

 さて、今回のお題にあがった「業務を標準化することで未来は拓けるか?」ですが、この回答について、皆さんはどうお考えになりますか?

著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー

小西一有

2006年にガートナー ジャパン入社。それ以前は企業のシステム企画部門で情報システム戦略の企画立案、予算策定、プロジェクト・マネジメントを担当。大規模なシステム投資に端を発する業務改革プロジェクトにマネジメントの一員として参画した。ガートナーでは、CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」の日本の責任者を務める。


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