負けっぷりが良すぎる日本企業、このままでは周回遅れ?

優れた技術だから勝てる、という話はもうやめよう。競争力モデルは変容し、ビジネスモデルが勝負の時代になったら日本はとたんに勝てなくなった。それが意外に分かっていない、と妹尾堅一郎氏は警鐘を鳴らす。

» 2011年01月05日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]

 「優れた技術だから勝てる」はもはや過去のことなのだろうか。高い技術力に支えられた日本製品もその多くが弱体化している。東京大学 知的資産経営総括寄附講座の小川紘一特任教授が調べたところによると、日本製品の凋落ぶりは明らかだ。例えば、1980年代半ばに世界シェア8割を占めたDRAMはほぼ壊滅、薄型テレビの液晶パネルも独占状態から今は1割と見る影もない。カーナビも独壇場だったが、もはや国内需要に頼るだけだ。市場が先進国に限られているうちは強いが、新興国へと拡大するとともに日本のシェアが落ちてしまう。

妹尾堅一郎氏 東京大学や一橋大学で教鞭を執るほか内閣知的財産戦略本部「知的財産による競争力・国際標準化専門調査会」会長や経済産業省「産業構造審議会競争力委員会」委員なども務める

 「世界はG7からG20の時代になり、競争力モデルも20年前とは一変してしまったのに気がついていない。海外企業が戦略的に日本企業を追い越したわけだが、当の日本企業はなぜ負けたのか分からない、技を掛けられたことにも気づいていない」と話すのは、同じ東京大学 知的資産経営総括寄附講座の特任教授を務める妹尾堅一郎氏。同氏は、「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」(ダイヤモンド社)の著者として知られている。

 「負けっぷりが良すぎる。このままでは日本だけ周回後れになってしまう」(妹尾氏)

 競争力というと、かつては個人の発明がその源泉となったが、垂直統合型企業による技術力が勝負という時代を経て、複数の垂直統合型企業による切磋琢磨、つまり商品力が勝負という時代へと、そのモデルは変容してきた。この「切磋琢磨型」の競争力モデルで日本企業は無類の強みを見せた、と妹尾氏は指摘する。自動車産業がその好例だ。トヨタ、日産、ホンダに始まり日本の完成自動車メーカーは14社に上る。互いに競い合い、既存モデルを錬磨しながら海外市場でも成功を収めた。しかし、米国は「次は斬新なビジネスモデルを創り続けることが勝負を決める」と見切り、新しいモデルづくりと新興国を味方についける「国際斜形分業型」でイノベーションを起こし始めたのだ。

 「競争力モデルは変容し、これまでの技術やそれを磨きあげるプロテクノロジー/プロインプルーブメントの時代からプロビジネスモデル/プロイノベーションの時代になり、日本はとたんに勝てなくなった。意外にもそれに気づいていない。肝心なのは、どのように優秀な技術を生かした製品サービス上の工夫を行い、どのようなビジネスモデルをつくり、どのような知財マネジメントを行って、事業優位性を形成するかだ」と妹尾氏。

 優れたビジネスモデルで知られるAppleは、クールなコンセプトと使いやすいユーザーインタフェースが創出する「価値」もさることながら、iTunes Storeによってモノとサービスを相乗化することで価値を「展開」したり、サードパーティーの力を得ることでさらに価値を「増強」することに成功している。もちろん、それはITの世界の話だから、という人もいるだろうが、あらゆる業界で単体から複合体へ、スタンドアロンからネットワークへという変化が起こりつつある、と妹尾氏は指摘する。かつては製品=商品の競い合いだったが、製品とサービスの掛け合わせ、つまり"商品サービスシステム"で競い合う時代に入ったのである。

 「技術が優れている、だから勝てる、という話はもうやめよう。新規事業の開発プロセス自体をイノベーションすることが求められている。三国志の劉備も関羽や張飛という武将・猛将だけでは勝てなかった。諸葛亮という優れた軍師の知恵が必要だった」(妹尾氏)

 なお、ITmedia エンタープライズとITmedia エグゼクティブでは、妹尾氏が登壇する「NTT DATA INNOVATION CONFERENCE 2011」に特別協力しています。

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