では、中国・インド以外、例えば東南アジア各国の市場はどうか。深沢氏はインドネシア、フィリピン、マレーシア、ベトナムといった国々は分業体制で工業力を上げていくことになるだろうと話す。
「自国で巨大企業を生み出す力を持っているインド、中国。そして国際分業で機動力を発揮する他のアジアの国々。そうした環境の中でどのような戦略が必要なのか。インドのタタ自動車が作り出した低価格自動車。それに使われた部品には日本を始め先進国メーカーのものも多数使われている。しかし新興国が生み出す自動車も先進国メーカーの部品がなくては成り立たないではないか、というのは楽観的過ぎます。どのような体制でアジア全域の市場とビジネスをしていくのかを明確にしていかなければ、いつのまにか、市場から相手にされなくなる可能性があるのです」
深沢氏は、世界中の巨大企業がグローバル戦略をとる上で厳しい覚悟について話す。
「現地生産拠点、事業所のローカライズを徹底し、権限を大幅に委譲し、人事評価などのルールも変えることをいとわない。製品もゼロベースで現地に合わせて作り、ローカライズを管理する部署は社長直下に置く。そこまでやろうとしている企業がたくさんあります。大変だ、なんていわないでください。『市場を理解しろ』、『日本で稼ぎたかったら日本人経営者がいる日本法人を作れ』、『ゼロベースから日本向けに製品を作らないから売れないのだ』、こうしたセリフ、思い出しませんか。80年代、もっと市場を開放せよと迫る米国に対して、我々日本人が発していた言葉です。」
複雑で厳しいアジア市場での成長戦略の話が出てきたが、今回のラウンドテーブルに参加し、自らも講演に立ったシンガポールテレコムの法人ビジネス上級副社長 ビル・チャン氏は2000年以来、アジア各地で繰り広げられた通信市場の競争について、次のように話す。
「2000年以降、アジアの経済危機によって多くの欧米系テレコム企業はアジアから撤退していきました。しかしわれわれはアジアの企業としてそこから撤退するわけにはいかなかった。なぜなら、アジアはわれわれのホームグラウンドであり、そしてもっとも成長が期待できる市場だったからです」
その後、シンガポールテレコムは各国のテレコム事業社を参加に納め成長を続け、ついにアジアで3番目の加入者(約3億6800万人)を誇る企業となった。現在では、アジアだけでなくオーストラリア、アフリカにも拠点を持つに至っている。そしてシンガポールテレコムはアジアナンバー1と称されるデータサービス会社となった。
「リーマンショック以降も、アジアの通信インフラ整備を進め、さまざまなオペレーションを展開してきました。そしてIT企業との合併も進め、クラウド時代を先取りするサービスを展開すべく準備を進めてきたのです。われわれのクラウドサービスは多くの企業のIT基盤を低価格で支え、迅速なビジネス展開をお手伝いしているのです」(ビル・チャン氏)
アジア各地の成長を見極め、着々と次世代の基盤づくりを進めてきたシンガポールテレコムの戦略は、アジアで勝つためのヒントを示してくれているのかもしれない。
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明治学院大学 経済学部准教授